研究課題/領域番号 |
23685017
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
吉川 元起 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (70401172)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ナノメカニカルセンサー / MSS / 嗅覚センサー |
研究概要 |
本研究では、申請者が世界に先駆けて開発した超高感度ピエゾ抵抗膜型表面応力センサー素子(Membrane-type Surface stress Sensor, MSS)に着目し、人間や犬の嗅覚と同様に、多種多様な「ニオイ」をパターン認識によって識別する「ファジー嗅覚センサー」の実現を目指すものである。 前年度までに作製した第二世代のチップでは、大幅な高感度化を実現したが、チップのチャンネル数、およびサイズの点で、少々汎用性が低いことが明らかになった。特に、前年度までに見出した「センサー素子の両面被覆法」では、1チップ上の全てのチャンネルがひとつの受容体層によって被覆されることになるため、1チップあたりのチャンネル数を多くするよりも、むしろチップのサイズを小さくし、標準計測装置と互換性をもつチャンネル数にした方が、多くの場合有用である。つまり、これまでほとんどの関連研究が取り組んできた「1チップ-多チャンネル」ではなく、「1チップ-1チャンネル」と発想を転換することで、多チャンネル測定における測定素子を分割することができ、活版印刷の如く、構成要素の最適化や標準化を効率よく行うことが可能になる。そこで、第三世代のチップとして、サイズを半分以下にし、チャンネル数を1チップあたり4つにするなど、両面被覆方法を元にした「1チップ-1チャンネル」戦略のもと、汎用性を高めたチップを作製することに成功した。 さらに、申請者が構築した包括的解析モデル(センサー素子部分だけで無く、受容体層を含めた全パラメーターを包含)とナノメカニカルセンサーの動的挙動に着目することで、同一種類の受容体層でも、受容体層の厚みを変えることで、別の種類の受容体層として機能することを明らかにした。これによって、受容体層に物理的自由度が追加され、パターン認識で重要となる多様性を一気に拡充することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでナノメカニカルセンサーでは、「片面被覆」の要請が、受容体層の最適化という面で大きな障害となっていた。これに対し、本研究で着目している膜型表面応力センサー(MSS)では、センサー素子の「両面被覆」という画期的な方法が利用可能であることを、本研究を遂行する上で見出したことにより、受容体層の品質や再現性が大幅に改善された。さらに、この「両面被覆」によって、「1チップ-1チャンネル」という発想の転換につながり、従来の手法に比べて、圧倒的に簡便かつ効率よく受容体層の最適化実験を行う事が可能になった。 また、受容体層に関しては、単純にDNAなどの種類を増やして多様性を実現するという当初の方針に対し、膜厚など物理的なパラメーターを受容体に付加できるということが実証できたため、多様性にさらなる自由度をもたらす新たな方針を見出すことに成功した。 以上のように、本研究は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに確立した「両面被覆」方法と、それに基づく「1チップ-1チャンネル」、さらに、受容体層の「物理的自由度」といった新たな方針や手法を駆使し、受容体層の最適化を行う。こうして、各受容体層で被覆されたセンサーチップを用いて、様々なニオイを様々な条件で測定することにより、ファジー嗅覚センサーの実現に必要となる各種条件を洗い出し、プロトタイプの作製を目指す。
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