環状高分子は、対応する直鎖状高分子とは『かたち』の違いから物性が異なることが知られており、学術的関心から近年様々な研究が行われている。しかし、実際のところ、『かたち』の違いによる多少の物性差(例えば、流体力学的半径比はおよそ0.9)は現れるものの、この程度の僅かな物性差異を材料分野の応用として展開するのは難しいと考えられていた。 ところが一方、自然界に目をやると『環状』の高分子構造に基づく様々な機能が進化の過程で培われ、プラスミドDNAをはじめ、環状タンパク質、環状アミロースなどが、その『かたち』に基づく特異的な効果を発現することが知られている。これは、生体物質が単一分子で機能するのではなく組織を形成していることに由来する。申請者は、好熱菌と呼ばれる一部の単細胞性の古細菌がその細胞膜に環状の脂質分子を有することで海底火山や温泉など熱水環境で生息できることに着想を得、両親媒性の直鎖状ブロック共重合体を環状化し、直鎖・環それぞれの自己組織化体の特性を比較検討した。すると驚くべきことに、環状高分子ミセルは、直鎖のものと比べて構造崩壊温度(曇点)が飛躍的に上昇することを見出した。この特性を活かして、ゲスト分子の封入および温度変化による放出実験を行った。さらに、直鎖状高分子および環状高分子からゲルを作製し、水溶性のモデルドラッグとして知られるフルオレセインナトリウム塩を添加し、放出実験を行った。
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