研究課題/領域番号 |
23685038
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
築地 真也 長岡技術科学大学, 産学融合トップランナー養成センター, 特任准教授 (40359659)
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キーワード | 蛋白質 / 化学修飾 / アフィニティラベル化 / トシル化学 / 細胞 / FKBP12 / 光クロスリンク / 蛋白質-蛋白質相互作用 |
研究概要 |
我々が最近開発した「リガンド指向型トシル(LDT)化学」は、生きた細胞内の標的(天然)蛋白質を選択的かつその機能を損なわずに化学修飾することのできる画期的な手法である。本手法は、細胞内蛋白質の機能解析のための強力なツールとしての応用展開が期待されるが、現時点ではまだ幾つかの課題も残されている。まず、反応速度が遅く、ラベル化部位を任意に指定することが難しい。どのような求核性アミノ酸が反応しうるかについても知見が乏しい。また、本手法はこれまでに赤血球への応用には成功しているが、より一般的な培養細胞への応用についてはまだ十分検討されていない。本研究では、これらの課題に取り組み、細胞内の対象蛋白質の望みの部位に望みの機能性プローブや翻訳後修飾を高速・高効率に導入可能な汎用性の高い細胞内蛋白質化学ラベル化基盤を確立することを目的としている。 本年度はまず、天然FKBP12を標的として、ラベル化剤構造のチューニングによってラベル化特性の改善が可能かどうかを検討した。多数のラベル化剤を新規に合成・評価した結果、リガンドとトシル基の間のスペーサー構造を最適化することで、ラベル化速度、収率、そして特定のアミノ酸に対する反応選択性を飛躍的に向上させることに成功した。また、LDT化学では、His、Tyr、Gluといった求核性アミノ酸が反応しうることが明らかとなった。本年度は更に、LDT化学を活用した細胞内蛋白質間相互作用の光クロスリンクに挑戦した。最適化したスペーサー構造を基本骨格として、光架橋剤であるジアジリン基をFKBP12に導入するためのラベル化剤を新たに開発した。それを用いることで、HeLa細胞に内在するFKBP12にジアジリンを化学修飾し、ラバマイシンの存在下で形成されるFRBとの複合体を光クロスリンクによって共有結合的に捕捉・検出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初予定していたDHFRのラベル化までは評価できなかったが、FKBP12を対象とした実験が極めて順調に進んだ。上記のように、FKBP12のラベル化においては、精製蛋白質を用いたin vitro系から細胞系まで評価することができ、LDT化学の基本特性に関する重要な知見を数多く得ることができた。また、動物細胞内での蛋白質間相互作用の光クロスリンクにも成功し、ケミカルバイオロジー研究におけるLDT化学の威力と実用性を示すことができた。一連の成果は、JACS誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、ラベル化剤の構造最適化によってラベル化特性を大きく改善できることが明らかとなった。しかし、ラベル化剤構造の最適化には大変骨の折れる試行錯誤を要し、その成否は標的蛋白質にも大きく依存する。また、ラベル化剤構造のチューニングだけでは、もう一つの重要な課題である「ラベル化部位を任意に指定してそこに化学修飾を施す」というのは依然として難しい。そこで次年度は、LDT化学と遺伝子工学を融合するというアプローチを検討する。ラベル化したい部位に高求核性アミノ酸であるシステイン(Cys)を変異導入し、そのCys導入蛋白質に対するLDT化学を展開する。
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