研究概要 |
本年度は,細胞内の特定オルガネラにおける部位特異的な亜鉛イオンの挙動を検出するため,新規蛍光プローブの合成と機能評価を行うた。1つはミトコンドリアへの局在化を指向したローダミン型であり,もう1つは分子内にコレステロール基による細胞膜局在化を図ったフルオレセイン型の亜鉛蛍光プローブである。いずれの分子も同じ亜鉛イオン結合部位を有している。 (1)亜鉛蛍光プローブの物性評価 亜鉛イオンに対する蛍光応答特性について評価するために,オルガネラ局在性を取り除いた化合物を用いて検証した。いずれのプローブ分子骨格も高い水溶性を有しておりほぼ無蛍光であるが,亜鉛イオンの添加により100倍以上もの蛍光増大を示した。一方で亜鉛錯体の結合解離定数は異なり,フルオレセイン型の場合は30nM程であったのに対し,ローダミン型では300nM程度となり,蛍光団の種類により有効検出濃度が異なることがわかった。いずれも,蛍光応答は亜鉛イオンに対して特異的であり,他の金属イオンの共存実験から生理的条件下においても亜鉛イオンを高感度に検出できることを確認した。 (2)オルガネラ誘導基の機能検証 前述のプローブ分子自身は蛍光OFFの状態であるため,オルガネラへの局在化を確認するには,常時蛍光がONとなるモデル分子を用いた蛍光イメージング実験を行う必要がある。それぞれの蛍光プローブから亜鉛イオン結合部位を取り除いた蛍光分子を合成し、HeLa細胞の染色を行った。その結果,コレステロール基を有するフルオレセインは細胞膜から,ローダミン型の分子からはミトコンドリアからの発光がそれぞれ観測された。後者の分子はシステインチオールと共有結合可能なクロロアセトアミド基を有している。すなわち,ミトコンドリアに発現しているタンパク質のシステイン残基と共有結合することができ,4回の洗浄操作によっても細胞外に溶出することなく安定に存在していることがわかった。 (3)部位局在型亜鉛蛍光プローブ それぞれの分子を用いて細胞系における亜鉛イオンの検出を行った。その結果,フルオレセイン型のプローブでは細胞膜近傍のローダミン型のプローブではミトコンドリア近傍の局所的な亜鉛イオン濃度変化を可視化できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プローブ分子を細胞膜あるいはミトコンドリアに局在化させるのみならず,ミトコンドリア内に発現しているタンパク質と共有結合を形成させることで,プローブ分子の安定な局在化を達成することができた。このような共有結合を介したプローブのラベル化は研究計画以上である。一方で,ゴルジ体,核,および小胞体にラベル化可能な蛍光プローブについてはやや遅れている。以上の成果を総合的に判断し,研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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