研究課題
本研究の最終目標は、フロー・フラッシュ法による時間分解赤外分光装置を完成させ、ウシ心筋チトクロム酸化酵素(CcO)のO2還元/プロトンポンプ反応を追跡することである。すなわち、CO結合型CcOをフローし、O2と混合後、観測領域でCOを光解離することで、O2還元/プロトンポンプ反応を開始させる(COは光解離性の阻害剤)。COの光解離は、532 nmのナノ秒パルス光(ポンプ光)の照射により誘起する。平成24年度は、フロー試料に基質O2を混合するためのシステムの開発を行なった。一般的な手法である2液混合法は、本研究で扱う2液(高濃度のCO結合型CcOとO2飽和緩衝液)の粘性が大きく異なるために失敗した。そこで別の手法として、シリンジからセルに至る流路(PEEKチューブ)の途中に、O2透過性に優れたシリコンチューブ(5 cm程度)を挿入し、O2ガスがフローするガラス管内部にそのシリコンチューブを通すことで、O2を供給した。このシステムにより、0.5 mM以上のO2を混合することが可能となった。なお、O2濃度はRu(bpy)3の蛍光消光により評価した。このシステムを用いて、CO結合型CcO(0.3 mM)とO2を混合し、観測領域にて可視吸収スペクトルを測定したところ、常温では、CcOが観測領域に流れ込む前に(すなわちポンプ光照射前に)、COが熱的に解離して、O2との反応が開始してしまうことが判明した。COの熱的解離を防ぐためには、低温(4oC以下)で測定する必要がある。
3: やや遅れている
O2の混合には成功したが、CO(光解離性阻害剤)の熱的解離が問題となっており、反応を制御できていないため。
本年度の実験では、温度を下げることにより、COの解離速度を低下させる。具体的には、フローの流路(シリンジ、チューブ、セル)を水ジャケットで覆い、4oC以下に温度をコントロールした上で実験を行なう。またケージドO2を用いた実験手法も並行して開発する。ケージドO2は、310~360 nmの紫外光照射によりO2を発生する化合物である。ケージドO2を用いる場合、観測領域に流れ込む前にCcOとO2が反応を開始することはない。現在、ケージドO2を開発・改良中である。
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