振動発電の一方式である静電式振動発電システムは、エレクトレットと対向電極の位置関係が変わることで電極内の静電誘導電荷量が変化する現象を利用して発電する自立型発電機である。低周波振動から効率よく電力が取り出せることに加え、出力電圧が高く、また、小型化が容易で集積回路内への組み込みも可能であるため、試作段階ながら、この方式による自己発電型万歩計や腕時計がすでに開発されている。ただし発電量が小さいために応用範囲が限定されているのが現状であり、今後様々なアプリケーションに利用してゆくためには、少なくとも現状より1~3桁高いレベルまでの出力向上を目指さなければならない。 静電式振動発電システムの出力を向上させるための最も効果的な手段は、エレクトレットの表面電位を増大させることであるが、現在試作されている静電式振動発電機に利用されているポリマーエレクトレットの場合、ポリマー基材の耐絶縁破壊性や劣化特性の観点から、高い表面電位を安定に保持し続けることは困難である。そこで本研究では、ポリマーと比較して表面電荷の高密度化に有利であることに加えて、形状安定性、分解・劣化耐性、電荷安定性にも優れた材料であるセラミックスを基材とした新たな高性能エレクトレットの開発を目指した。結果、水酸アパタイトを大気下で焼結処理することで水酸化物を部分脱離させたオキシハイドロキシアパタイト(OHA)セラミックを分極処理することで、1000 V超の表面電位を安定に保持するセラミック製のエレクトレットの作製に成功するとともに、OHAの微構造およびOHAの非化学量論組成を制御することで、表面電位の更なる飛躍的向上が望めることを明らかにした。
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