本年度は超短パルスレーザーによる多光子励起光学系の導入による三次元計測システムの構築と、高分子ブレンド系における単一高分子鎖のコンホメーション解析を行った。 年度前半においては多光子励起超解像顕微鏡システムの構築を試みた。通常の顕微鏡計測においては試料はケーラー照明光学系によって照明されるが、この場合顕微鏡観察時の焦点面以外からの背景光および蛍光分子の褪色が問題となっていた。そこでモードロックチタンサファイアレーザー(パルス幅100 fs、繰り返し周波数80 MHz)を用いたtemporal focus照明による多光子励起光学系を設計した。これにより焦点面のみでの選択励起を可能とした。この手法によって焦点面以外の蛍光分子に由来する背景光や褪色を大幅に抑制することができ、広い領域における三次元計測が可能となった。しかし、この多光子励起光学系を用いた場合のイメージングには5時間を要し、従来の手法に対して計測時間が大幅に増加した。これは使用したレーザー光源のパルスエネルギーが低いためであり、再生増幅システムなどの高出力パルス光源を用いることで改善できるものと考えられる。 高分子ブレンド系における単一高分子鎖のコンホメーションの解析を行った。A-B二成分高分子ブレンドにおいて、Aポリマーの単一分子鎖をBポリマーのマトリックスの中に分散したスピンコート膜を作製し、その中のAポリマーのコンホメーションを評価した。超解像顕微鏡観察のためにローダミンスピロアミド色素によって蛍光ラベルされたpoly(methyl methacrylate)(PMMA)をAポリマーとして、Bポリマーとしてpoly(butyl methacrylate)、poly(vinyl acetate)を用いた。その結果、非相溶な高分子媒体中におけるPMMAの広がりは単一成分バルク中とほぼ変わらないことが明らかとなった。
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