研究課題
今年度は、これまでに行った物質群に加え、数種の新しい化合物におけてHall効果測定に成功した。中でも、n型の有機トランジスタにおいてHall効果測定に成功したことは特筆すべき成果である。これまで観測されていたp型に加え、n型の有機トランジスタでバンド伝導が実現することを示せたことは、有機半導体デバイスの更なる発展を加速すると期待される。また、中心骨格に同じペンタセンを持つ二種の誘導体分子において、キャリアのコヒーレンスの違いが生じることを見出した。これにより、分子の揺らぎがキャリア輸送に影響を及ぼすことと、Hall効果がそれを確かめる手法として優れていることを再確認できた。また、今年度はSpring8における実験により、分子の揺らぎの程度を定量的に評価する手法を開発することに成功した。ペンタセン、ルブレンなどを用いて実験、解析を行った結果、揺らぎの大きさには分子の形状、結晶構造を反映した異方性がある事が明確となった。今後、揺らぎの大きさが分子間のパイ電子同士の重なり積分にどのように影響するかを各分子において計算し、より精密な議論を展開していく予定である。その他、計画していた電場変調分光測定も共同研究を通じて進めつつある。特に今年度はルブレンを用いた電場変調分光測定に成功し、キャリアが数分子に広がった状態であることを示す結果を得ることに成功した。今後は共同研究を積極的に推進し、分光手法を用いた実験についても多く行っていく予定である。また、理論グループとの共同研究は良好に進んでおり、キャリアの振る舞いに関するシミュレーション手法の開発など、幾つかの進展が見られている。今後も密な連絡体制を取り、今後は分子の性質を含めた計算手法の開発に取り組んでいく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
幾つもの新規化合物におけるHall効果測定に成功していることに加え、Spring8における実験によって分子揺らぎについてのより定量的な情報を得ることに成功しており、分子の形状、揺らぎとキャリア輸送との関わりがより明確になりつつある。また、理論グループとの研究協力が非常に良好に進んでおり、キャリア輸送に関するシミュレーションにおいて成果を得つつある。
今後もこれまでと同様、実験、理論両面からの十分な検討により、キャリアのコヒーレントな電子状態に寄与する分子揺らぎの効果を明らかにし、分子構造との相関を体系的に理解することに努める。すでに分子の揺らぎがキャリア輸送に及ぼす影響が明確になりつつあり、より早いキャリア輸送を実現するための分子骨格・手法についても幾つか候補が挙げられる状況にある。最終的には、有機トランジスタの究極性能:100cm2/Vsの移動度目標を達成する。
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