本研究は2010年にSlonczewskiにより提案された、磁性絶縁体中のマグノン生成を利用したスピン注入磁化反転(Phy. Rev. B. 82 054403)の実現を、フェリ磁性絶縁体であるスピネルフェライト層を含んだTMR素子を用いて目指すものである。 本年度は実際のフェライトを含んだトンネル磁気抵抗素子を作製し、その磁気伝導特性の評価を行った。具体的な膜構造は、MgO(001)/Fe/MgO(tnm)/Fe(3nm)/Pt(5nm)/CoFe2O4(5nm)/Cr/Auである。電子線リソグラフィーを用いた微小素子作成プロセスをもちいて、200×100nmの素子に加工し、その磁気伝導特性を評価した。磁気抵抗比はMgO障壁層の厚さに大きく依存した。MgO障壁層が1.5nm程度の場合は数%の磁気抵抗比しか得られなかったが、2.0nmでは70%以上の磁気抵抗比を観測した。この結果より、スピン流による磁化反転実験が可能なレベルの素子作製に成功したといえる。 また、本素子での問題点の一つにPtを非磁性層に用いていることがあげられる。Ptはスピン軌道相互作用が大きくスピン流を有効に伝える層としてはあまりふさわしくない。そこで、フェライト層を下部電極に有する新たな構造を考案し、非磁性層にCrを持つ素子の開発を行った。具体的な膜構造はMgO(100)/TiN/Fe3O4/Cr/Fe/MgO/Fe/Auである。200×100nmの微小素子において50%以上の磁気抵抗比を得ることに成功した。 熱を入れる実験に関しては、現在ヒーター線層を付加した段階であり、実際の測定は研究期間内では実施できなかった。本研究期間外となってしまうが、今年度実験を行う予定である。
|