研究課題/領域番号 |
23686008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塚崎 敦 東京大学, 大学院・工学系研究科, 講師 (50400396)
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キーワード | 半導体物性 / 結晶工学 / 表面・界面物性 / 量子エレクトロニクス / 強相関エレクトロニクス |
研究概要 |
これまでに構築してきた基盤技術を活用し、低濃度かつ高移動度を保持する2次元電子(2DEG)系の形成と輸送特性評価に取り組んだ。低濃度2DEGの実現に向けて、Mg濃度の薄い領域を検討し、約6x10^<10>cm^<-2>2においても移動度20万cm^2V^<-1>s^<-1>を越える2次元系が形成できることを報告した。この技術を用いることで、相関の強い電子系の輸送特性評価が可能になった。低濃度2x10^<11>cm^<-2>の試料を用いて角度依存性を評価したところ、g因子が増大していることを見出し、これは電子-電子相互作用に起因するものと考えられる。また、g因子はバルク値の約4倍となっており、これは、垂直配置で磁場印加を行った場合にランダウ分裂幅とゼーマン分裂幅が同程度になることを意味している。よって、電子相関の寄与を電子濃度の電界変調によって制御することで、2次元電子系のスピン偏極度合いも制御可能であることが示唆される。今後、さらに低濃度の2次元系を評価することで、よりゼロ磁場に近い弱磁場でのスピン偏極性について検討を進める。 強磁場を印加することで、分数量子ホール状態v=1/3の観測に成功した。さらに、電界によって電子濃度を制御し、強磁場下での抵抗率の振る舞いを評価したところ、v=1/4近傍で絶縁体化することを見出した。この現象は磁場誘起のウィグナー結晶相生成の可能性が示唆される。もしくは、局在の効果に依存した量子ホール絶縁相によるものと考えられる。今回用いた試料の電子濃度領域(η~1x10^<11>cm^<-2>)では、相関パラメータrsは11程度であり、従来ウィグナー結晶相が議論されているrs~37よりまだ小さい。しかしながら、ランダウ準位間の分裂幅が小さいために、準位の混成が起こって小さなrsにおいても、結晶化が見られ始めている可能性が示唆される。今後は観測された絶縁層の要因をさらに詳細な輸送特性評価を行うことで議論していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
相関の強い2次元電子系と期待されるZnO系2DEGにおいて、実際に強磁場中で電界効果などの技術を駆使して、物性評価を行ってきた。そこで、従来から想定される相関パラメータよりも低い領域で絶縁層を見出したことは、支配因子を検討する機会を与えるものである。具体的にも、電子-電子相互作用の効果をg因子の増大によって観測しており、今後、垂直配置でのスピン偏極性などについて議論を深めたい。
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今後の研究の推進方策 |
試料品質が急速に向上していることから、電界効果などのデバイスプロセスと合わせることで、より精密な実験が可能になっている。今後、継続して低濃度かつ高移動度試料の物性を低温、強磁場下で進めることにより、相関の強い2次元系輸送について調べる。特に、これまで希釈冷凍機温度での測定が少ないので、高移動度試料についての測定を加速させることで、偶数分母の分数準位観測や様々な分数準位の活性化エネルギーについて議論を進める。研究の進捗は順調と考えられるが、昨年上半期の予算執行制限に関する通達を受けて、導入予定物品を当初計画から変更した。この変更の影響で、構造の最適化に集中して移動度向上を目指す。
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