研究課題/領域番号 |
23686015
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
高橋 和 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (20512809)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / 微小共振器 / 応用光学・量子光工学 / 半導体物性 / 光源技術 / ラマン散乱 / 非線形光学 / シリコン |
研究概要 |
本研究課題の目的は、①次世代光デバイスとして期待されているシリコンフォトニック結晶ナノ共振器のQ値向上、共振波長ばらつき低減という2つの性能指数の向上と、②ナノ共振器による非線形光学効果の増強効果の理解の深化の2つである。前者では、Q値1000万、共振波長ばらつき100pm以下を明確な数値目標とし、後者では様々な非線形光学効果の定量的な観測を目標としてきた。これらの研究は、革新的な次世代光デバイス開発を支える基礎技術・学理と考えている。 本年度は、ナノ共振器の測定を様々な雰囲気下で行えるように測定チャンバーを改良して測定を行った結果、ナノ共振器のQ値を低減している原因がシリコン表面の光吸収であることを突き止めた。それを除去することにより、ナノ共振器の世界最高Q値を900万まで高めることに成功した。研究人材がいないため、測定ができていないだけで、Q値1000万はいつでも確認できる状況であり、2年目にして、本研究課題の最重要テーマを達成した。 次に、波長ばらつき低減であるが、これは数値的な向上が見られていないのが現状である。Q値が向上したのにもかかわらず、波長ばらつきが低減しないことは一見矛盾する結果であり、波長ばらつきの原因は、プロセス精度以外の所に原因があると分かってきた。大体は、見当が付いているが、研究人材がいないため、詳細な研究は今後の課題となっている。 最後に、非線形効果の増強についてであるが、ナノ共振器における誘導ラマン散乱の増強メカニズムをほぼ解明した。その知見を下にサンプル作製を行い、とうとう、シリコンラマンレーザーの発振に成功した。発振閾値はインテルが発表しているデバイスの2万分の1という驚異的なものである。さらに、デバイスサイズは10万分の1程度、作製プロセスは圧倒的に簡便である。 なお、本研究は、京都大学野田進研究室の協力を得て行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ナノ共振器の世界最高Q値を900万まで向上し、1000万というマイルストーンを視界に捉えた。後は研究人材だけで、既に1000万を超える共振器はいつでも確認できる状況にある。ナノ共振器のQ値は、100万を突破した2006年頃から、その伸びが鈍くなり、数年前なら、誰も1000万という値に現実性を感じなかった。しかし、研究者は地道な研究を継続することで、Q値低減の主要因を解明し、更にそれを取り除くことで、大幅なQ値向上を達成した。科研費の支援による基礎研究の積み重ねの賜物である。 次に、共振波長ばらつき低減の主要因にもほぼ見当をつけ、後は実際に研究を遂行するだけである。人材が乏しいため、遂行できていないが、人材さえ来ればすぐに研究を進められる準備は整えてある。 最後に、超小型シリコンラマンレーザ-の超低閾値での室温連続発振という偉業を成し遂げた。研究者がこの研究テーマに取り組み始めた当初、多くの方から懐疑的な視線、意見を浴びたが、挑戦しなければ何事も進まない。今後の性能向上の見通しも明るい。これも科研費サポートによる基礎学理の解明があってこその成果である。
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今後の研究の推進方策 |
Q値1000万は既に視界にとらえているが、研究を実行する人材がいないため、実際に研究を行うかの見通しは立っていない。既に900万を達成して本課題の目標は99%達成したので、論文投稿後には、非線形光学現象の研究に軸足を移す予定である。共振波長ばらつきについても同様である。ただし、Q値向上、共振波長ばらつき低減とも、ラマンレーザーの高機能化に必要不可欠なため、ラマンレーザ-研究を行いながら重要なヒントを得ていく予定である。 まずは、誘導ラマン散乱の更なる増強による、ラマンレーザ-の低閾値化、高効率化、高出力化、温度依存性などについて、理論・実験両面から研究を進める。既に、研究の方針、見通しは立っている。 これからの1年は、研究人材獲得と教育に時間を注ぎ、本研究課題で得られた成果を狭い世界で終わらせないよう、10年先を見据えながら研究を進める予定である。
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