本研究課題の目的は、①次世代光デバイスとして期待されているシリコンフォトニック結晶ナノ共振器のQ値向上、共振波長ばらつき低減という2つの性能指数の向上と、②ナノ共振器による非線形光学効果の増強効果の理解の深化の2つである。前者では、Q値1000万、共振波長ばらつき100pm以下を明確な数値目標とし、後者では様々な非線形光学効果の定量的な観測を目標としてきた。 Q値向上に関して、真空中での測定、表面状態の改良などを試みた。しかし、Q値900万からの向上は見られなかった。Q値を制限している要因を様々な分析手法で調べたが、明確な答えは得られなかった。ただし、表面の水が大きなカギを握っていることについて確信を深めることができた。Q値1000万の達成は将来に持ち越す。 共振波長のばらつき低減は、200pmから依然として数値的な向上が見られていない。フォトニック結晶の格子定数や空気孔径を変えてみたが、明確な改善は得られなかった。おそらく、100pm以下の実現には、SOI基板の厚みばらつきを低減すること、または基板の歪みの除去が重要と思われるので、今後研究を継続する。 非線形効果の増強については、ナノ共振器を用いたシリコンラマンレーザーの周波数差について重点的に調べた。超高精度でシリコンナノ共振器のラマンシフトを決定して、シリコンラマンレーザ-の閾値をサブナノワットに低減することに成功した。また、わずかな圧縮歪みが加わりフォトニック結晶が歪んでいることを明らかとした。このひずみは、上で述べたQ値向上、波長ばらつき低減ともかかわっている可能性が高いと考えている。これらの成果については、Optics Express誌で論文発表を行った。また、アンチストークスラマン散乱、2倍波、3倍波の測定にも成功している。これらの非線形光学効果については、今後、論文にまとめる予定である。 なお、本研究は、京都大学野田進研究室の協力を得て行った。
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