研究概要 |
本研究ではイオン伝導性固体を構成する結晶格子に対して外部より変調をかけ,電気化学的特性を制御することが新規物質探索手法として成立するか検討することを目的としている。今年度は,酸素イオン伝導性固体であるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)をモデル電解質として用い,格子変調により電気化学的特性が有意に変化するかについて実験的な検証を行った。YSZに対して外部より変調をかける手法としてYSZの薄膜化とそれに伴い基板との熱膨張係数の差から導入される熱ひずみを用いた。YSZ薄膜をパルスレーザ堆積法を用いて熱膨張係数の異なるアルミナや石英ガラス基板上に基板温度を変え製膜すると,ある状態における薄膜内部の熱ひずみは製膜温度との温度差,基板とYSZ薄膜の熱膨張係数差により規定される。アルミナの熱膨張係数はYSZとほぼ同等であり,石英ガラスの熱膨張係数はYSZより小さいので石英ガラス上に製膜したYSZ薄膜には製膜温度以下では面内方向に対して引張側の熱ひずみが印加され,結晶格子が変調される。実際に製膜時の基板温度を900℃から675℃まで変化させて製膜したYSZ薄膜内部のひずみは常温で0.05%から0.15%まで変化した試料の作製に成功した。作製した試料の面内方向導電率を測定したところ測定温度700℃においてひずみが0.05%の試料と0.15%の試料では測定誤差を超え,導電率とその活性化エネルギーが変化した。YSZの導電率における活性化エネルギーは酸素イオンが結晶格子内をホッピングする際に要するエネルギーであるので,この変化は熱ひずみにより結晶格子が変調した結果であると考えられる。 今年度の成果は平成24年秋にハワイで行われる電気化学系の国際学会Prime2012において発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では電気的特性と結晶格子変調を同時に計測,評価可能なハイブリッド計測手法を開発する予定であったが,前述した実験的な検証がパルスレーザ堆積法による製膜装置が震災からの復旧に時間を要したため完了していない。次年度早々には装置を完成させ,YSZ薄膜の実際の結晶格子変調を測定しつつ電気的特性の変化を評価することとしたい。
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