異なる熱膨張係数を持つ基板上に多結晶薄膜を形成し,熱応力を制御することで結晶格子を変調させた場合,それぞれの結晶粒内部の結晶格子は異なる方向を向いているため,結晶格子の変調方向と大きさが異なるという欠点があった。しかし,熱応力を利用すると最大で1%近く,結晶格子を変調可能であり,単純な機械試験法よりも優れている点もあった。そこで今年度はイオン伝導性固体の単結晶基板を,異なる熱膨張係数を持つリングに精密機械加工を用いてはめ込み,昇温によりイオン伝導性固体に圧縮性の熱応力を印可し,結晶格子を変調,その影響を調査検討した。 イットリア安定化ジルコニア単結晶をイオン伝導性固体に,アルミナ,窒化珪素をリングに用いた場合,常温での隙間を1ミクロン程度とすると試験温度400度でそれぞれ230MPa,600MPaの圧縮応力が印可されることになる。また試験温度を800度まで上げれば1GPaを超える応力を印可可能である。これは薄膜と基板間の熱応力で制御するよりは小さいが0.5%程度まで結晶格子を変調できるものである。さらに結晶格子の変調方向や電気的特性の計測方向を変更可能であるという利点もある。 単結晶(100),(111)を用い面内圧縮応力に対して垂直方向に電気的特性を計測した結果,いずれの方向においても200度を基準にした場合,300度程度から徐々に導電率が低下しはじめ,さらに500度を超えたあたりから導電率が大きく低下しはじめ,600度においては最大で1桁程度の低下が観察された。これらの結果は,結晶格子変調のイオン伝導性への影響が線形的なものではないことを示唆するものであった。
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