研究課題/領域番号 |
23686023
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
嶋田 隆広 京都大学, 工学研究科, 助教 (20534259)
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キーワード | 低次元構造体 / ナノスケール / 強誘電体 / マルチフィジックス特性 / 第一原理解析 / 分子動力学 / ひずみ / 機械的特性 |
研究概要 |
強誘電特性は材料寸法に非常に敏感であることが知られており、特にナノスケールの構造体では自由表面が形成する反電場(強誘電性を減衰させる電場)や異材界面からの拘束が支配的となるため、強誘電特性が非常に存在し難い環境となっている。しかし、申請者はナノ薄膜においてマクロ材とは異なる原子配列が現れ、新奇な強誘電分極が保持されることを発見した。本研究では、ナノ構造体中に発現する新奇強誘電特性とその発現メカニズムを解明することを目的とする。 初年度である平成23年度は、まず、上述の新奇強誘電特性評価の基礎となる大規模量子計算手法とそれに応じた高速並列計算システムの構築を行った。購入したクラスタ計算機をインターコネクトInfini-bandによって高速通信が可能となるシステムを構築し、計算機環境の最適化を行った。また、原子軌道の線形結合(LCAO)基底に基づき、強誘電体の構造・原子変位・電子状態などの各種物性を精密に表現できる擬ポテンシャルの構築に成功した。 構築した量子解析手法を用いて、低次元構造を有するナノ構造体中の強誘電特性を評価した。ナノ薄膜では、ステップを有する表面部において局所的に強誘電特性が劣化すること、また、特異な閉塞的ドメイン構造が現れることを発見した。また、強誘電体ナノチューブでは、同サイズの薄膜とは異なるメカニズムで強誘電特性が発現することを発見した。これらの成果は、国際誌Physical Review Lettersなどに掲載されており、国際的に高い評価を得ている。また、ワイヤやドットでは、強誘電特性以外の別物理特性(磁気)が同時に発現することを発見した。本現象は世界的に例がなく、その詳細やメカニズムの解明が急務であり、当初計画に加えて研究を実施する予定である。また、ナノ強誘電体に対して力学的負荷を与えるため(次年度実施予定)、構造体の力学的最適設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度として当初計画していた、大規模量子解析技術・環境の構築、低次元ナノ構造体中の新奇な強誘電特性評価、ひずみ負荷実施のための力学設計、を達成した。これらの成果は、Physical Review LettersやPhysical Review Bなどインパクトの高い査読有国際誌に計7件掲載されてとともに、学術図書「Fracture Nanomechanics」内に本研究に該当する章を設け、研究成果を記載している。これに加え、ナノ構造体中に強誘電特性とは異なる別種の物理特性(磁性)が発現・共存することを発見した(当初計画を超える成果)。本発見は世界的に例がなく、学術的・工業的にも大きなインパクトが予想される。したがって、次年度以降、当初計画に加えて、本年度発見した現象の詳細やメカニズムについても研究を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた新奇強誘電特性と共存する別物理特性(磁性)について研究を進めるととともに、ナノ構造体に力学的な負荷を加えて、機械的変形特性と新奇強誘電特性との連動特性(マルチフィジックス特性)の解明にあたる。また、新奇強誘電特性発現のメカニズムについて検討するため、その鍵となる反電場を解析する手法を開発する。研究手段や開発手法の方針については既に目処が立っており、研究遂行上の問題点は特に見当たらない。
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