研究概要 |
ナノ厚さ潤滑薄膜の力学モデル構築に向けて,摺動時における液架橋形状の測定法を確立し力学応答との同時計測を実現することを目的とした.力学応答の測定には従来研究において開発したファイバーウォブリング法(FWM)を用いることとした.透明かつ高さ数nmの液架橋形状を測定するために,試料下側よりプローブ先端表面を顕微鏡観察することとした.プローブ表面での光の反射率は,液体に接触すると約65%低下する.すなわち,液架橋とプローブとの接触領域は周囲に比べ暗部として観察される.これにより液架橋の形状や大きさを知ることができる.しかし明視野による観察では,基板下面等からの反射光が背景ノイズとなり,高精度な測定が困難であった.そこで,微分干渉法の光学系を利用したノイズ低減を着想した.FWMと微分干渉顕微鏡を組み合わせた同時計測系を構築し,液架橋の形成過程を観察した.プローブを潤滑膜に接近させていくと,プローブ最下点を中心に円形の暗部が観察され,液架橋の形成を観測することができた.観測から得られたプローブと液架橋の接触面積は,幾何形状から見積もられる理論値と概ね一致し,観測の妥当性を確認した.また,単分子厚さ潤滑膜(膜厚2nm)との接触により形成される直径1ミクロン程度の液架橋の可視化にも成功した-これは,本法が高さ数nmの液架橋を1ミクロンオーダの面内分解能でリアルタイムに可視化できることを示している.開発した観測法を用いて,液架橋形成と粘弾性の同時計測を試みた.粘弾性計測においては,プローブを加振しながら摺動隙間を狭小化し,プローブ先端の振動振幅と位相変化を測定した.膜厚5nmの潤滑膜を試料として測定した結果,隙間15nm付近で液架橋の形成を確認し,同時に潤滑膜の粘性抵抗力による位相遅れを検出した.測定結果から薄膜の粘弾性を試算し,粘度がバルク状態の数倍に増大することを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
実際の潤滑においては,液架橋の形成が平衡状態に至る前にせん断されることや,大変形によって摺動面と液架橋の接触面積が動的に変化することが想定される.本研究の第二段階として,平成23年度までの研究において構築したモデルを拡張し,このような状況に適用可能な力学モデルを構築する.液架橋形成の過渡状態を実験において実現するために,プローブを共振振動させ,振幅数マイクロメートルオーダの大振幅で摺動する.共振の大振幅の場合,プローブ先端は振り子のような軌道を描くため,半周期の間に液架橋の形成→破断の過程を経る.この過程をモデル化するために,テーマ1では一定とした液架橋とプローブの接触領域や,前進・後退接触角を時間の関数として表現し,実験結果との比較によりモデルの改良を行う.さらに,三重点が移動することによるエネルギー散逸もモデルに取り入れる.
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