研究概要 |
本研究は,量子分子流体科学の学術分野において,(1)「微細流路の局所破壊によるイオン・分子流動評価法」,(2)「電子と分子運動の特性時間の差異に着目したTwo-Path量子分子動力学法」および(3)「非ガウス型関数積分に対する群論の応用」のテーマで,実験および応用数学理論を深化した新しい分子流動予測・評価法を考案することを目的としている.本年度において,課題(1)に関連して実験装置を構築し,イオン流動の電気計測に関する基礎実験を行った.特に,イオン交換膜を介したプロトン流動について計測を行い,電解質膜を介したプロトン伝導率の評価ならびにプロトンの電場応答を測定することに成功した.膜中を移動するプロトンに対してその振る舞いを能動的に制御することが可能となり,本課題を達成するための第一歩を踏み出した.さらに,固体高分子形燃料電池を用いて実験を行ったが,プロトン流動を制御することにより発電効率の向上が可能となることが示された.そのことについて,理論モデルを用いた解析を行った.課題(2)に関して,電子波動関数の時間発展を効率良く計算するための新手法を提案した.量子分子動力学法では,原子核の運動に連動して電子波動関数も時間発展するが,各時刻における原子配置を二点間の線形補完で表し,そのポテンシャル場を電子が運動するとして計算効率の向上を試みた.これより,電荷移動の影響が顕著でないポテンシャル場においては,始状態と終状態が良く一致することが示された.つまり,第一原理分子動力学法を基として,二状態間を量子分子動力学法で記述することができることが示された.一方で,電荷移動が生じる系では,その効果が正確に記述できていない結果となる.この点の改善については,今後の課題とするところである.課題(3)は課題(2)に関連するテーマでもあり,平成24年度において具体的に取り組む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の3課題について,申請時に計画したロードマップにしたがって順調に目標が達成されていると言える.基礎実験においても,その結果を確実に評価し,成果へとつなげることができている.本年度の成果については,国際会議等において発表を行った.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は,各課題について基礎的な実験および計算を行った.今後は,本年度に得られた基礎データをもとにさらに現実系を対象とした実測ならびに解析を行う.また,それに対して理論モデルの改良を行うことにより,実験の方向性に対するフィードバックにつなげる.実測・理論ともに,複雑化することが想定されるが,できる限り要素を抽出したシンプルなものとすることを心がける.
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