研究課題
本研究では,量子分子流体科学の学術分野において,実験計測,シミュレーションおよび応用数学理論を駆使した新しい分子流動予測・評価法を考案することを目標とする.本課題は,難題として知られる超微細流体計測,量子力学と分子運動論の融合,量子化学理論の高度化に対して積極果敢に挑戦するものであり,これらのブレークスルーと統合化により,分子流体科学における学術体系の先導と先端機械の創製による直接的な社会貢献を目指している.特に,環境保全と高度医療への応用に取り組み,次世代電池,創薬および遺伝子治療開発に特化した独創研究を展開し,科学技術創造立国の理念を具現化する.平成24年度までに,電解質溶液中におけるイオン流動に基づく流体計測を行うための実験系の構築を行い,予備実験により電気計測と可視化観察の同時計測の実現可能性を模索してきた.また,電極表面における電荷移動を伴う電気化学反応と電流電圧特性を評価するための量子分子科学に基づく新理論の展開を進めてきた.平成25年度において,昨年度までに構築してきた実験系を用いて本実験を行った.電気化学反応による電流信号に対応した電解質溶液の流動現象の可視化が可能となった.さらに実験を重ね,同時計測技術の確立を目指す.その一方で,溶液中における非定常イオン流動現象に関する理論モデルを構築し,実験結果との比較を進めてきた.現実系におけるイオンの振る舞いについて現象の時空間スケールを理論的に説明することに成功した.これにより,実験系における現象の予測が可能となり,系の最適化とともに高精度の実験結果を得ることが期待される.量子力学に基づく電荷移動現象の解明と電流電圧特性の評価について,DNAの塩基分子を対象とした解析を行い,他者の実験結果および理論解析の結果との一致が得られた.
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は,非定常イオン流動現象の解明に関する顕著な成果を得ることができた.特に,微小電流環境下における電気計測の結果に対して,ナノスケールにおける現象からミリメートルまでの現象を理論的に予測することを可能とし,一部の実験結果と良い一致が得られることを示すことができた.また,電極表面近傍の電気化学反応による電流電圧特性についても,塩基分子の応答特性を評価し,他者の結果とも一致を確かめている.引き続き,他の酸化還元反応の系についても計画を進行中である.溶液中におけるイオン流動とそれに伴う応答特性に関して,電流計測と可視化観察の同時計測が実現されるとともに,理論的な裏付けも得られており,計画は順調に進展しているといえる.一方,電気化学反応に関する電荷移動について,非定常の波動方程式を解くところでの数値解析の工夫が今後の課題である.
平成26年度は,昨年度までに確立できた実験系により電気計測と可視化観察を確実なものにすることと,局所的なイオン電流の分離を応用したデバイスへの発展を検討する.そのときに,信頼性の観点から出力を最大限に引き出すために,デバイスの最適化が必要となることから,独自の理論モデルに基づいた設計指針を与えることを目指す.他方,電極反応の解析に関する数値計算手法の確立についても,電子波動関数の振る舞いまで考慮したモデルに仕上げることを目標に計画を進める.また,本年度は,計画の最終年度となることから,これまでの成果を対外的にアピールするとともに,社会に還元するための方策についても提案していきたい.一方,残される課題を明確にし,問題を解決するための具体的な方針を示したいと考えている.
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