固体高分子形燃料電池の氷点下起動における触媒層内のマイクロ・ナノ凍結機構を明らかにし、耐氷点下起動性に優れた触媒層構造・起動方法を提示するとともに、通常運転時でのマイクロポーラスレイヤー(MPL)近傍におけるマイクロ・ナノ水輸送現象を解明することを目的とし、凍結モデルの開発、MPL断面の詳細観察を行った。さらに、これらを用いて種々の条件下での凍結および水輸送現象の支配因子を検討した。得られた主な成果を以下にまとめる。 1.凍結挙動および触媒層内氷分布に及ぼす電流密度、カソードガス条件(酸素濃度、圧力)の影響を詳細に調べた結果、電流密度に依存する触媒層内凍結挙動に対し、カソードガス条件の及ぼす影響は小さいことが明らかとなった。高電流密度始動における氷による起動停止後には触媒層内のガス拡散層側に氷分布が偏ることが既に明らかとなっており、酸素供給以外の因子が凍結挙動に影響を及ぼしていることが示された。 2.氷分布に及ぼす因子として、アイオノマー内の水移動および温度の影響を調べ、これらの影響が小さいことが確認された。これより、凍結による触媒層内電気伝導性の低下(主に接触抵抗の増加と推定)が氷分布を形成させる支配因子である可能性が示唆されるとともに、触媒層内反応のモデル解析、簡単な触媒層電気伝導性の測定実験により、この可能性を支持する結果が得られた。 3.触媒層をMPLに直接塗布した構造(GDE構造)は、触媒層付高分子膜とMPL付ガス拡散層をホットプレスした一般的に用いられている構造に比べ、耐フラッディング性が向上することを明らかにした。さらに、前年度までに確立したMPL凝縮水の断面観察手法を用い、GDE構造は触媒層-MPL界面の凝縮水滞留の抑制に有効であることを示した。
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