研究概要 |
今年度は,開発した光アップコンバーターの特性および媒体であるイオン液体がアップコンバージョン量子効率(UC-QY)にどのように影響するのかのメカニズムの解明に向け,アップコンバージョン光強度の時間応答を調べるためのシステムを構築,実験を実施し,結果の解析から一定の知見を得た. 構築したシステムは,パルス励起光源としてナノ秒波長可変OPO,光検出系として光電子増倍管,信号処理系として高速デジタイザからなる.これにより,光アップコンバーターからの発光強度の時間応答カーブ(decay curve)を計測した.得られたdecay curveの形は励起パルス強度に顕著に依存し,弱励起の極限ではsingle exponentialの線形減衰が,それ以外では非線形な減衰挙動が観測された。 続いて,実験結果を理解するために解析を行った.まず,本現象が「平均場近似を採用した二体消滅のレート方程式でよく記述できる」と仮定し,解析を進め,decay curveを表現するオリジナルの無次元解析方程式を導出した.この無次元解析解は,様々な実験条件で得られたいかなるdecay curveについてもよく一致し,そのfitting解析を通じて一次のdecay rateと二次のdecayrateの分離に成功,それぞれの値を得ることができた.これから,エネルギーキャリア分子の媒体として用いられるイオン液体のカチオン分子のある特徴分類によって,エネルギーキャリア分子の一次の励起寿命(一次のdecay rateの逆数)が顕著に変化することが判明した.この知見は,UC-QYのさらなる向上を目指す上で有用な指針を与えるものである. さらに,用いたイオン液体の粘度を測定し,媒体であるイオン液体のバルク粘度とエネルギーキャリア分子間でのエネルギー移動レートの間に,イオン液体の分子構造に依存した特徴的な関係を見出した.
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今後の研究の推進方策 |
上記「研究実績の概要」に記載の通り,幾つかの重要な知見・法則性が見出されたが,「なぜそうなるのか」のメカニズムについては依然未解明である.具体的に,今現在主に2つのメカニズムの可能性が推測されるが,そのいずれが真であるのか(或いはいずれも偽であるのか)によって,効率向上に向けて採るべき指針が異なってくる.この理由から,今後はより微視的かつ根底的なメカニズムの解明に力点を置いて研究を推進してゆく予定である、H.23年度交付申請書「本年度の研究実施計画」に記載の項目3(無機エネルギーキャリアの予備検討)については,本研究遂行を通じ有機エネルギーキャリアの扱いやすさ・長所の多さを明確に認識しつつある事,及びH.23年度交付申請書中に「(応募時申請額からの減額によって)本年度に3.を本格的に実施するための資金確保は極めて困難な状況である」と記載した事情も合わせ,今後は有機エネルギーキャリア使用に専念して研究を進めてゆく.
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