研究課題/領域番号 |
23686035
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 陽一 東京工業大学, グローバルエッジ研究院, テニュア・トラック助教 (80526442)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 光アップコンバージョン / 太陽光エネルギー高効率利用 / 光波長変換 / イオン液体 / イオン液体中の物質・エネルギー輸送 / スピン三重項状態 / 三重項-三重項消滅 |
研究概要 |
当該年度交付申請書の「研究実施計画」に記載した二項目(下記)を,当初の予想以上かつ十分に達成した. ■項目1:以下【】内に交付申請書より要約して再記 【光禁制な励起三重項準位にアクセス可能な手法である,過渡吸収測定の実験系を構築・完成し,エネルギー輸送を担う分子間の,スピン三重項エネルギー移動効率のイオン液体依存性を定量的に測定する.】 まず,過渡吸収測定系を完成させた.そして,イオン液体5種類において,エネルギーキャリア分子間のスピン三重項エネルギー移動効率を定量的に決定した.「この移動効率の定量的決定は,光アップコンバージョンの研究分野において初」という点は強調される.この成果により,光アップコンバージョンのメカニズムに関し重要な知見が得られた.成果はJournal of Physical Chemistry B(米国化学会)から論文出版された.また,上記に加え,三重項-三重項消滅過程における分子キネティクスの研究を行い,時間分解発光測定とモデル解析を元に,メカニズムに関する極めて重要な知見を得た.この知見もまた(上とは別の論文として)Journal of Physical Chemistry Bから出版された. ■項目2:以下【】内に交付申請書より要約して再記 【系統的なメカニズム解明を行うためのイオン液体を可能な限り多く購入し,試行する.これによって,環境(媒体)としてのイオン液体が,UC量子効率や分子間エネルギー移動ダイナミクスにどのような影響を与えるのかの系統的検討が可能になる.】 この項目に関し,今年度は大手イオン液体メーカーとの協力関係構築に成功し,無償でイオン液体の提供を受けることが出来た.結果,15種類以上ものイオン液体を入手し,それらを用いて試験・評価を行った.その結果,イオン液体粘度とアップコンバージョン効率との間に,明確かつ重要な相関関係が見出された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記「研究実績の概要」に記載したように,当初の予想を上回る達成が得られている.その具体的理由は以下の通り. ■「項目1:分子間スピン三重項エネルギー移動効率の定量的測定」■ このために行う過渡吸収測定は,一般に難しく,かつ,多大な労力を要するものである.本研究では,実験方法および測定系の改良を丹念に重ねてゆき,注意深い実験を行うことで,信頼性あるエネルギー移動効率を定量的に決定することに成功した.これは,所属機関(東工大)化学専攻の光化学を専門とする共同研究者をして「非常に綺麗な結果で,ここまでしっかり実験で求めた例はなかなか無い」と言わしめるものであった.これにより,「スピン三重項状態を利用した光アップコンバージョンの研究分野で,このエネルギー移動効率を定量的に測定したのは初」という新規性を達成した.本成果は上述のようにJournal of Physical Chemistry Bから論文出版されたが,査読者2人共が"This paper represents a significant new contribution and should be published as is."の高評価であった. さらに,この成果に加え,「研究実績の概要」に記載のように,発光の時間分解測定とモデル解析を通じ,メカニズムに関する非常に重要な知見を得た.この知見もまた(上とは別の論文として)Journal of Physical Chemistry Bから出版されたが,これも同様に査読者の評価が高いものであった. ■「項目2:なるべく多くのイオン液体の試行と系統的検討」■ 世界最大級のイオン液体メーカーと関係を構築し,イオン液体の無償提供を受け,系統的検討が進んだ.この検討から,従来知られていなかった重要な傾向(上述)が明確に見出され,メカニズム理解および仮説のレベルが一段と深いものとなった.
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今後の研究の推進方策 |
H.25年度が本課題の最終年度だが,今後は,得られた様々な知見から帰結された仮説の検証を行う.その仮説とは,「三重項-三重項消滅の結果,(光アップコンバージョンに有用な)励起一重項状態が生成する分岐比は,用いるイオン液体の粘度およびイオン液体のもつミクロスケールの微細構造に依存する」というものである. この仮説の実験的検証には高額な実験装置類を要するため,これをすべて自前で行うとすると,H.25年度の本課題の交付内定額(直接経費80万円)では不足である.従って,学内外で共同研究者を見つけるか,学外の有料測定装置を使用(或いは委託)することになると予想される. この仮説が証明できれば,「三重項-三重項消滅」という古くから知られているベーシックな光物理現象について,その奥底のメカニズムに初めてメスを入れることになり,学術的意義は極めて大きい.また,これが明らかになれば,太陽光エネルギー利用の観点から近年急速に注目を集めている光アップコンバージョン技術において,その効率向上の指針を明らかにすることになり,工学的意義も非常に大きなものとなる事が期待できる. また,これと平行して,用いるイオン液体や有機分子(増感分子・発光分子)の種類において幅広く試行および効率向上の探索を実施し,本技術のメカニズム解明および実用化に向けて系統的知見を積み重ねてゆく方策である.
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