研究課題/領域番号 |
23686040
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小泉 憲裕 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10396765)
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キーワード | 強力集束超音波 / HIFU / 技能の技術化 / 技能のデジタル化 / 超音波診断ロボット / 医療支援システム / 医療ロボット / 患部運動補償 |
研究概要 |
患者の皮膚を切開することなく患部をピンポイントに診断・治療することができる強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound: HIFU) を用いた診断・治療技術は,既存の開腹手術や低侵襲手術の代替としてきわめて有望であり,近年,多くの研究が報告されている. このようなHIFUを利用した既存のシステムに共通する主要な問題点の一つとして呼吸・心拍をはじめとする臓器の運動に対する補償が行なわれていない.そこで,本研究では,能動的に運動する生体患部をロバストかつ高精度に抽出・追従・モニタリングしながら,超音波を集束させてピンポイントに患部へ照射することにより,がん組織や結石の治療を患者の皮膚表面を切開することなく非侵襲かつ低負担で行なう非侵襲超音波診断・治療統合システムを提案する. 本システムの主要な診断・治療対象として,『結石』と『がん』がある.本研究では,まず,『結石』が追従できることを目標とし,これまでに動物摘出腎による患部追従・HIFU照射による破砕実験を行ない,2.5mmの追従精度を実現した.当該年度は,『結石』の追従がある程度できるようになってきたので,次の目標として,『(腎臓)がん』についても対象とした.しかしながら,がんには,超音波画像上で結石のように輝度が高いという目印がない.そこで,腎臓の形状(輪郭)情報やテクスチャ(模様)情報を利用した. 具体的に,まず,CT等により,腫瘍の形状モデルまでも組込んだ,3次元腎臓モデルを構築し,これと,時々刻々と入力されるステレオの超音波画像とをレジストレーションすることで,間接的な患部位置同定法を実現した.当該年度の特筆すべき成果として,従来型のレジストレーション手法では,これまで不可能であったリアルタイム(20Hz)での患部追従を実現し,2.5mmの追従精度を実現したことが挙げられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,下記の5つのコア技術を基盤として,これを改良・発展させてきた: (コア技術I) 人体に対する安全・安心接触/非接触動作技術(IEEE/ASME Trans. Mechatronics(メカトロニクス分野の国際一流誌)への論文掲載),(コア技術II) 機能に応じた高精度機構設計技術(IEEE Trans. Robotics(ロボティクス分野のトップジャーナル)への論文掲載),(コア技術III) 超音波医療診断・治療技能における機能抽出・構造化技術(IEEE Trans. Robotics(ロボティクス分野のトップジャーナル)への論文掲載),(コア技術IV) 超音波診断・治療タスクに応じたシステム動作切替え技術(IEEE Trans. on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control (超音波制御分野の国際一流誌)への論文掲載),(コア技術V) リアルタイム医用超音波画像処理技術(International Journal of Medical Robotics and Computer Assisted Surgery (医療ロボット分野の国際一流誌)への論文掲載) 具体的に,例えば,位置・姿勢の正確な実現が要求される超音波診断・治療機器を動作させる機能には,人間のようなアーム型機構ではなく,直動および曲率ガイドによる剛性の高い機構を用いてハードウェアを実装すべきであり,このように機能に応じて高精度な機構を設計する技術,人が人にやさしく接するように診断・治療機器を人体にとって安全・安心に動作させる制御技術など,医療技能の技術化・デジタル化を実現するにあたって強力な武器となるべき独自のコア(核)技術を世界にさきがけて開発・蓄積しつつあり,医療機器産業分野における有望な将来技術になることが期待されるため.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,今後,機能の評価・改良:機能の信頼性を確保するため,下記の4つの基礎実験・検証を通して機能の評価を行なう.評価結果は設計指針にフィードバックされ,これをもとにシステムの改良を行ない,システムの機構・制御上で機能の高度化を図る.:(実験1)In vitroでの人体サイズのファントムモデルを用いた診断・治療実験,(実験2)人体サイズの摘出動物腎での腎臓結石/癌モデルを用いた,Ex vivoでの診断・治療実験,(実験3)実際のヒトの腎臓を用いたin situでの診断実験,(検証)構築したシステムにおいてHIFUが周囲組織へ及ぼす影響をマクロ・ミクロ双方の観点から検証し,人体に近いサイズの動物での安全性を確認・確立 ここで,本研究を遂行するにあたって,最大の難所となるであろう,超音波診断画像による生体中の患部抽出・追従の問題点とこれを解決するためのアプローチ法について示す.HIFUによる生体中の気泡発生や,追従対象(腎臓結石/がん)と同様のインピーダンスを有する背景等により,患部抽出・追従のための超音波画像の質が劣化する.この劣化が追従誤差増大の原因となり,さらなる画像の変質および振動を引き起こし,これが,また,追従誤差の増大を招く.一方で,この事実は,何らかの方法で追従精度を向上することができれば,劇的に追従精度を向上させる可能性があることを示している. 本研究では,我々が開発してきたコア技術を基盤として,上記の課題を克服する.具体的に,追従誤差を最小化するというアプローチと追従誤差の影響を低減するというアプローチの両面から,上記の問題に取り組むことで,効率的な治療および患者にとって安全・安心なシステムの構築を目指す.
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