昨年度までにInGaN/AlGaN超格子構造の結晶成長手法を構築してきたが,高効率太陽電池実現のためには,その量子構造から光励起キャリアを効率よく取り出すことが必須となる.しかしながら,窒化物半導体超格子を横切るキャリア取り出しは,InGaAsP系に比べて結晶品位が劣ることなどから大幅に効率が低下すると報告されてきた.そこで,n型ドープしたAlGaN/GaN超格子の両端にn型GaNを接続した共鳴トンネルダイオードを作製し,そのキャリア伝導特性から超格子を横切るキャリア輸送の効率を評価した.その結果,AlGaN層のAl組成が高くなると残留不純物によるドーピングが起こり,キャリア輸送が困難になることが判明し,太陽電池に適用可能なAl組成の範囲が明らかになった.同時に,GaN/AlNの界面に存在する結晶欠陥がキャリア輸送を妨げる傾向がみられ,このことも高Al組成のAlGaN障壁をまたぐキャリア輸送特性を劣化させる要因であると考えられる.これらの要素を考慮しつつ,前述の共鳴トンネルダイオード構造から量子井戸・障壁層の層数を増やした構造を作製し,超格子中のサブバンド間エネルギー差に相当する近赤外光を照射した際の光電流を計測した.その結果,近赤外光の照射による光電流の増加を示唆するデータが得られたが,ノイズが大きく,明確な実証には至っていない.前述の残留ドーピングや界面の結晶欠陥を完全に除去できていないことが妨害要因となっているものと考えられる. 一方,AlN/InGaN積層構造の結晶成長から,新たな研究の展開が得られた.意図的に低温で成長するAlNを用いたところ,表面もモフォロジーの悪化したAlN上に形成したInGaNのIn組成が不均一に増大し.電流注入下で高輝度に白色発光する現象が見られた.これは蛍光体を用いない白色LEDへの応用が期待され,今後検討を進めていく.
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