研究課題/領域番号 |
23686071
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
芳村 圭 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50376638)
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キーワード | 水安定同位体比 / 結合大循環モデル / 気候プロキシ / データ同化 / 古気候 / 20世紀再解析 / セルロース同位体比 / 海洋循環 |
研究概要 |
10篇の査読付き論文の出版、9件(研究代表者が発表したもののみ)の発表によく表れているように、極めて生産性の高い年度を過ごすことができた。また年度当初に、アンサンブル平均場を直接再解析における拘束条件として使用できないことが判明したが、「単一メンバー修正法」を開発することによりこの問題をクリアし、無事に1871年から2008年までの「20世紀同位体再解析」を完成させることができた。これらの成果は次年度以降に論文化していく予定である。この約140年間のデータを用いて、氷帽アイスコア・サンゴ・樹木セルロースの酸素・水素同位体比との比較を行った。特にサンゴと樹木セルロースの同位体比について、モデルと観測の時系列データが比較可能となったのはこの研究が初めてのことである。その結果、1960年以降の降水同位体比は、過去の類似研究と同程度の信頼性で再現されていることが確認できた。氷帽アイスコアに関しては、降水よりは再現精度がやや劣化することが確認できた。その原因は、主に空間解像度に依存する高山での循環場の再現性能の低さと降水後の素過程(融解や雪の巻き上げ等)の影響が大きいと考えられる。サンゴ殻の炭酸カルシウムに含まれる酸素同位体比から得られる海水酸素同位体比について、モデルから求めたものと比較すると、特に降水量が多い場所で精度よく再現できることが明らかになった。降水量の少ない場所では、モデルに含まれていない素過程が影響(例えば海流の変化や河川からの淡水流入)を与えているということを示唆している。一方、セルロースの酸素同位体比は降水の影響に加えて相対湿度と水蒸気の同位体比の影響が強く表れることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
140年分の同位体再解析データが完成し、その解析を進めている。気候プロキシシミュレータ的なものの開発を進めており、来年度には結果を示せる予定である。また、古気候シミュレーションの準備も進んでおり、そちらも順調である。
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今後の研究の推進方策 |
各要素モデルへの同位体物質導入のコーディングを入念に行う。地表面蒸発散過程での同位体挙動観測については、農環研の間瀬水田を利用した観測計画を策定し、生産技術研究所のフラックス観測グループと連携しつつ実行する。また、降水や水蒸気・土壌水分・積雪・河川水等の水素酸素同位体比情報が、吸収・交換・輸送といった様々な物理的・生化学的過程を踏まえてセルロースやサンゴ、石筍、氷床コア等の一部として固定される際の挙動をモデル化する。
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