研究実績の概要 |
最終年度にふさわしく、数多くの成果が得られた。 まず、水同位体を導入した大気海洋結合モデルのプロトタイプが完成した。ただし、この結合モデルを用いた論文等の出版は本プロジェクトの数年後になると考えている。
次に、同位体大気モデルを単体で用いた研究について述べる。衛星観測による水蒸気同位体比データをモデルシミュレーションと比較し、鉛直構造や水平輸送過程との関連を調べた。特に韓国Jeju島で得られた地表面観測データとも組み合わせた研究(Lee Z. et al., 2013)や中国大陸におけるアジアモンスーン変動と同位体シグナルの地理的変遷に関した研究(Liu et al., 2013)を行った。また、カリフォルニア南西部サンディエゴにおいて観測された水蒸気同位体比の時間変動の要因について、Atmospheric River現象もしくはサンタアナ現象によってそれぞれ西と東から運ばれてくる水蒸気起源の違いが大きな変化をもたらしていることを明らかにした(Farlin et al., 2013)。
同位体海洋モデルについては、モデルシミュレーション結果とサンゴ同位体比と比較する手法を確立した(Liu G. et al., 2013)。サンゴ殻のSr/Ca比から得られるSSTに起因する同位体比の変化量を、直接測定可能なサンゴ殻のd18Oから差し引くと、海水の同位体比が得られる。このようにして世界の熱帯域にて採取された34か所のサンゴ殻のデータと、簡素な鉛直1次元海洋モデル及び同位体海洋大循環モデルによるシミュレーション結果とを比較した。その結果、簡素な鉛直一次元モデルであっても年々及び季節変動を再現することは可能であるが、大河川の河口部やデルタ地域などでは海洋大循環による影響が大きいことが判明した(Liu G., et al., 2014)。
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