研究課題/領域番号 |
23686074
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 久 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80326636)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 蛍光色素 / 重金属 / レシオメトリー / 鈴木‐宮浦クロスカップッリング / マルチセンサ |
研究概要 |
交付申請書に記載した「研究の目的」:本研究では、環境サンプル(環境水・排水)中のイオンをオンサイトで一斉分析できる、新規の技術(蛍光ナノマテリアル)を用いた分析システムを開発する。 「研究実施計画」:H24年度は複数の有害イオンの同時定量を行うことを目的とする。 H24年度の具体的内容、意義、重要性:4種類のナノマテリアルを開発した。各ナノマテリアルはボロンジピロメテン(Boron- dipyrromethene)母骨格と配位子から構成される。既往の研究から、配位子をボロンジピロメテンの3位に導入することにより、イオン捕捉前後でナノマテリアルの蛍光スペクトル(波長および強度)が変化する蛍光ナノマテリアルを合成できることが知られている。本研究では色素母骨格と配位子を鈴木‐宮浦クロスカップッリング反応を用いて直結した。これにより、配位子の分子構造を変えるのみで、容易に複数のイオン選択性の異なるナノマテリアルを開発することが可能となった。このような合成戦略により、4種類の新規ナノマテリアルを開発した。これらナノマテリアルの重金属応答性を羽深ら(Hafuka et al. 2013 BCSJ 86(1), 37-44)の方法に準拠し評価した。 例えばナノマテリアル1の蛍光極大波長は539 nmであったが、重金属イオンを加えると蛍光極大波長が長波長側へ移動シフトした。特にZn2+を加えた場合に波長移動幅シフト幅は最もが大きかった。 このように配位子が異なる新規ナノマテリアルを4種類開発した。4種類のナノマテリアルは蛍光極大波長のシフトにより重金属イオンに応答することが分かった。各ナノマテリアルは複数種の重金属イオンに選択的に応答し、波長シフト幅は重金属イオンによって異なった。すなわち、波長シフト幅により多数の重金属をセンシングできる技術を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書に記載した「H24年度の研究実施計画」は「複数の有害イオンの同時定量を行うこと」であった。 これは4種類のナノマテリアルを開発したことから達成されたといえる。 これに加えて、ボロンジピロメテンの2か所に置換基を導入可能な「第二世代ナノマテリアル」を開発した。これにより、同一の配位子を持つ、置換基が異なるナノマテリアルを3種類開発した。これらのナノマテリアルの性能を検討したところ、配位子の分子構造がたとえ同一でも、ナノマテリアル内に電子吸引性の異なる置換基を導入することによりイオン選択性を変更できることが明らかとなった。これは世界初の結果であり、特許出願済みである(出願番号:2013-022979)。 さらに、H25年度に実施する予定である「環境水サンプルの測定」に既に着手している。H24年度に開発した亜鉛イオン特異的検出ナノマテリアルを用いて、路面排水中に含まれるZn亜鉛イオンの定量を試みた。路面排水は雨天時に大阪市、つくば市、岐阜市および東広島市の幹線道路とまたは高速道路のから25地点から個採取した。ナノマテリアルにて測定した亜鉛イオン濃度は、ICP-AESにて測定した亜鉛イオン濃度とほぼ1対1の関係にあった。すなわち、ナノマテリアルを指示薬として用い、路面排水をろ過するのみで、路面排水中の全Znおよび溶存Zn2+濃度を極めて簡便に半定量的に測定できる技術を開発した。 以上の理由から、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、複数のナノマテリアルをガラス基板上に固定することでアレイセンサを作製する。アレイと分光器を光ファイバーにつなげ、分析システムを構築する。②各種イオンを様々な濃度に調整した標準溶液を用いて、蛍光スペクトルのデータベースを作成する。③データベースを既存のニューラルネットワークによる解析ソフトを用いて解析し、複数のイオンの一斉分析(種の同定と定量)の可能性を検討する。 このアレイセンサに工場廃水、鉱山排水、河川水、湖沼水を滴下し、瞬時にサンプル中の重金属イオン濃度を測定することができるか、検討する。 特に、基板への固定化方法を検討する。固定化法としては、①PVC固定化、②抗体固定化キット、③共有結合による固定化(アミンカップリング)を検討する。
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