国や自治体が学校や図書館,庁舎など公共施設を新たに整備する際,低層の場合は原則として木造建築とする基本方針が2010 年10 月に政府から発表された。これは木材利用を促し,停滞している林業の再生を狙うものであり,今後ますます木造建築物の耐震安全性の向上が期待されていると言える。本研究は,繊維直交方向に対しては強度が低いという木質材料の有する強度的弱点を紫外線で硬化する繊維補強樹脂(FRP)を用いて補強することで,大スパンに対応した高強度高靭性木質構造耐力要素を開発するものである。 前年度までの研究によって,FRPの耐久性能および鋼鈑挿入型ドリフトピン接合による木質ラーメン接合部において木材の割裂破壊を防ぎ,接合部の靱性改善効果を検証した。当該年度は,設計法を確立するために必要となる詳細な力学特性を解析するための数値解析手法に関する検討を行った。このとき,接合部のディテールを検討する解析手法を構築するために,ドリフトピンと木材の耐力特性を検討するための基礎的な要素実験も合わせて実施した。そして木材の異方性主軸を考慮するためにHillの塑性ポテンシャル理論に基づく直交異方性モデルを用いて,木材の局部的なめり込み挙動を有限要素法によって解析し,その解の特性を調査した。その結果,鋼材であるドリフトピンの等方性材料としての塑性化と木材の直交異方性材料としての塑性化およびドリフトピンと木材の離間接触問題をそれぞれ適切にモデル化することで,基本的な鋼鈑挿入型ドリフトピン接合の非線形挙動がある程度追跡可能であることが示された。
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