本年度は,粒内核生成の促進によるせん断型変態組織の微細化をめざし、粒内の析出物の影響を調べた.具体的には、第二相としてオーステナイト母相中に微細析出するNbCに注目して、Fe-0.2%C-1.5%Mn合金(ベース材)およびベース材にNbを0.1%添加したNb添加材を用いた.これらの合金をNbCが溶解する1200℃でオーステナイト化処理した後、700℃~1000℃で種々の時間保持してNbCを析出させた後、急冷してマルテンサイトを、500℃で保持してベイナイト組織を得た. 熱処理材の硬度を調べた結果,析出処理温度に関わらずこれらの試料のビッカース硬度は析出時間が長くなるにつれて低下した.これは,低温での保持の場合には,フェライト変態が生じてマルテンサイト量が低下するためである.一方,高温保持の場合には保持時間に関わらず全面マルテンサイトであることから,NbC析出により固溶炭素濃度が若干低下することが,マルテンサイト硬度の低下につながったものと考えられる.しかしながら、NbC析出処理によってマルテンサイト組織およびベイナイト組織の明確な変化は認められず,拡散型変態では大きな微細化効果を有する粒内析出物が,せん断型変態においては,効果が小さいという重要な知見を得た.また,長時間の保持(18ks)後には,SEM観察で認められるほどのサイズのNbCが生成していたが,やはりせん断型変態組織には大きな違いは見られないことが明らかとなった.
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