GaN中に添加されたEuの発光遷移確率はEu原子の周辺局所構造に強く依存している。とくにGaN系材料は従来のGaAsやSi系材料と比較して、貫通転位が桁違いに多く含まれる。そこで、本研究では転位密度の異なるGaN母体材料を、格子定数の異なる種々の基板(Si、サファイア、SiC、GaN)を用いることによって作製し、発光特性との関係を調べた。試料の作製は有機金属気相成長法により行い、サファイア基板上には低温GaNバッファ層、無添加GaN層1.7μm、Eu添加GaN(GaN:Eu)層300nmを積層し、GaN基板及びSi基板上GaNテンプレート上には再成長により無添加GaN層170nm、GaN:Eu層300nmを積層した。Si基板上、サファイア基板上、GaN基板上GaNの(002)面におけるロッキングカーブ半値幅はそれぞれ958、187、76arcsecと格子定数差及び熱膨張係数差の増大により半値幅が増大する。これらロッキングカーブ半値幅と貫通転位密度の関係式からGaN母体材料の転位密度の変化は10^9cm^<-2>から10^7cm^<-2>までに対応する。次に転位密度の違いがEu発光特性に及ぼす影響を調べるため、PL測定を行った。PLスペクトルにはEuイオンにおける^5D_0-^7F_2遷移に対応する発光ピークが複数観測された。これらの発光ピークは複数のEu発光センターによる発光が重畳したものであり、ピーク比の変化はEu発光センターの存在比が変化していることを示す。本研究により貫通転位の異なる母体材料によって、Eu発光センターの存在比が制御できることが明らかとなった。とくにGaN基板を用いることによって、従来のサファイア基板上GaN:Euと比較して積分強度が2.3倍と増大することがわかった。よって、転位密度の低いGaN基板上にGaN:Euを作製することにより、Eu高輝度発光を実現できることが示された。GaN基板は導電性を有し、基板裏面に電極を形成した縦型伝導LED構造を作製することが可能であるため、今後は、縦型伝導LEDによる電流注入高輝度Eu発光への応用が期待される。
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