研究課題/領域番号 |
23686104
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千星 聡 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00364026)
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キーワード | 銅合金 / 水素 / 時効析出 / 状態図 / 透過型電子顕微鏡 / 力学特性 / 導電率 / 組織制御 |
研究概要 |
電子部品の小型化、効率化が求められる中で、主要構成材料である銅合金も高性能化の要求が強い。高強度銅合金の1つである時効析出型チタン銅(Cu-Ti合金)では優れた強度特性や応力緩和性を維持したまま導電率を改善させる手法として「水素化」が注目される。最近ではCu-Ti合金をある条件で水素中時効すると、従来品と同様の強度特性を示したまま導電率を2倍以上にすることに成功している。この成果を展開して、効率よく特性改善や用途開発を推進していくためには、合金設計・組織制御法の指導原理の確立が必要不可欠となる。そのため2011年度は、水素中時効にともなうCu-Ti合金の強度、導電率の変化の挙動を平衡論・速度論的知見から検討した。 銅固溶体領域からCu4Ti単相領域が研究対象であるため、チタン組成が0~20at.%となるCu-Ti合金を溶製した。溶製材を均質化、切出し、溶体化、予備加工を施した後、Cu-Ti合金を水素圧0~10気圧中にて500℃で等温時効した。作製した合金において、水素含有量をアルゴンガス搬送融解-熱伝導法、母相中のチタン濃度をX線回折、四端子法による電気抵抗測定、析出物の構造解析を透過型電子顕微鏡により測定・観察した。チタン組成が0.5 at.%以下の合金では水素中時効によってTiH2が母相中に八面体形状で単相析出した。TiH2の析出により母相チタン濃度は最終的にほぼゼロとなった。チタン組成が1~6 at.%の合金では、時効初期にスピノーダル分解を経て針状Cu4Tiが微細析出するが、Cu4Tiが水素化によってTiH2になるため、最終的には水素圧0.09 MPa以下の時効ではCu4TiとTiH2の共析出状態、水素圧0.12 MPa以上ではTiH2の単相析出状態に帰着した。一連の成果をまとめ、Cu-rich側のCu-Ti-H三元系実験状態図を提案することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験計画では、水素中時効にともなうCu-Ti合金の組織変化を平衡論・速度論的アプローチにより実験的に調査することを目標に掲げた。系統的に合金組成を変化させて組織を評価した結果、Cu-rich側のCu-Ti-H三元系実験状態図を提案するに至った。また、得られた実験データを緻密に解析することにより析出物(Cu4Ti, TiH2)の形成を速度論的観点から整理できる目処がついている。総合的に鑑みて、概ね計画通りに研究を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度ではCu-Ti-H系の実験状態図を提案した。今後の研究では、まず、得られた成果を基調に計算状態図の構築を推し進める。実験・理論の両方からCu-Ti-H系平衡状態図の妥当性を検証しながら、Cu-Ti-H系において形成される平衡相を合金組成、温度、水素圧力の関係として整理し、合金設計のための基盤とする。次に、組織を明らかにした試料に対して力学的・電気的特性を調査していく。合金組織と特性との関係を明確にして、組織制御による特性向上の可能性を見極める。
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