研究課題/領域番号 |
23686112
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
則永 行庸 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (00312679)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオマス / 石炭 / 炭素資源 / ガス化 / 熱分解 / 反応速度論 / シミュレーション / 分析 |
研究概要 |
本研究は、未だ不明な点の多い炭素資源の熱化学転換反応において発生する初期熱分解生成物の気相熱分解、部分酸化、水蒸気改質反応特性をできるだけ経験的な要素によらず高精度に予測できる素反応速度モデルの構築を目的としている。そこで、初期熱分解生成物、とりわけタールと総称される超多成分混合系の分子組成を解明するための実験技術並びに分析手法の開発に取り組むとともに、初期熱分解生成物に含まれる化学種の気相反応を網羅する素反応速度モデルを構築し、実測値と比較することで速度モデルの妥当性を検証する。本年度得られた主な成果を以下に記す。1.バイオマス2次気相反応をシミュレーションする上で必要となるバイオマス初期熱分解生成物の分子組成情報を得るための独自の実験装置を開発した。GCおよび質量分析計に管状反応器を直結したもので、バイオマス急速熱分解生成物をダイレクトにGC、質量分析計に導入し、約60種類の化合物を同定、定量することに成功した。2.1で得られた結果に基づいて、バイオマス急速熱分解生成物に含まれる化合物の反応を網羅するような大規模反応速度モデルを主に素反応データーベースに基づいて構築し、木質バイオマス(スギ)の気相水蒸気改質及び部分酸化反応のシミュレーションを実施し、ラボスケールの反応器を用いて得られた実測値との比較を行った。いずれの反応系においても、シミュレーションにより実測値を良好に予測することに成功した。3.本反応速度モデルを、セルロースの気相反応シミュレーションに適用することで、セルロース気相熱分解反応機構を解析し、セルロース気相反応において芳香環骨格を含まないセルロースからなぜ、芳香族化合物であるベンゼンやナフタレンが生成するのかを分子、ラジカルレベルで解明することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると判断する理由を以下に記す。 1. 本研究で開発した固体炭素資源初期熱分解生成物の分子組成分析装置は、熱分解温度、気相滞留時間を独立に制御できる独自のものであるとともに、複数のGCカラムを使い分けることで、世界最高水準の詳細さで分析が可能である。 2. 本研究で構築したバイオマス気相反応の網羅的大規模反応速度モデルは、素反応データベースに基づくもので汎用性があり、今回実証したように、スギの気相水蒸気改質や部分酸化反応と言った異なる反応系においても高精度の予測が可能である。ヨーロッパの大学などから本反応機構に関する問い合わせが数件あり、ミラノ大学の燃焼反応速度モデリング研究グループとセルロース気相反応機構に関する情報交換を開始した。 3. 開発した熱分解生成物分子組成分析装置を用いてセルロース2次気相反応特性を詳細に追跡し、これを構築した大規模素反応速度モデルを用いて解析することで、これまで未解明であったセルロース気相反応において芳香族化合物が生成する反応経路を突き止めた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、異なるバイオマスや石炭に対しても検証例を増やし、構築した反応速度モデルの精度の向上を目指す。また、量子化学計算により重要素反応の速度パラメーターを高精度に推算する。 加えて、固体炭素資源熱化学転換において生成する微量芳香族成分のリアルタイム計測を実現するために、リチウムイオン付着イオン化質量分析法を適用し、石炭熱分解実ガス中に含まれるナフタレンなどの多芳香族化合物をフラグメントフリーで観測する新規分析手法の開発を進める。 本研究で得られた固体炭素資源の熱化学反応に関する実験結果及び反応機構、速度パラメーターのデータベースを構築し公開に向けた準備を整える。
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