研究概要 |
前年度までに開発した固体炭素資源初期熱分解生成物の分子組成分析装置により得られた結果に基づいて、木質バイオマスを中心に初期熱分解で生成する揮発成分の分子組成を詳細に明らかにした。初期熱分解生成物中同定できた化合物の割合は、熱分解温度700および800℃でそれぞれ約80および100%であることが分かった。このレベルの物質収支でバイオマス急速熱分解生成物を定性、定量した例はこれまでにない。 さらに、初期熱分解生成物に含まれる化合物の反応を網羅する素反応速度モデルを構築し、木質バイオマス(スギ)の急速熱分解生成物の気相部分酸化反応シミュレーションを実施し、実測値との比較を行った。ラジカルを含む500以上の化学種および8000以上の素反応からなるモデルを構築した。その結果、スギ揮発成分部分酸化反応の管状反応器用いた実験結果を良好に再現できることを明らかにした。本成果に対し、アジアバイオマス会議におけるExcellent Paper Awardを受賞した。 また、これまで本研究で明らかにしてきたセルロース気相反応機構に加えて、主要なバイオマス構成成分であるリグニンの熱分解反応機構についても検討した。特にリグニン熱分解で生成するグアイアシルなどの置換単環芳香族化合物の反応機構および速度パラメーターについてはデータベースが不足していることから、これらを量子化学計算によって推定する研究をベルギー・ゲント大学と共同で実施し、置換単環芳香族へのラジカル付加反応に関する反応熱および活性化エネルギーを系統的に明らかにした。さらに本手法で得られた新たな反応を加えて素反応速度モデルの精度向上に取り組んだ。 本研究で構築した反応速度モデルに関する論文(Fuel, 103:141-150(2013) )を発表し、反応機構や熱力学データベースについても同論文のSupporting Informationとして公開した。
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