次世代宇宙用推進機であるホールスラスタは,人工衛星の小型化および高機能化を強力に推進するため,各国で競って研究開発が進められている.しかしながらホールスラスタには耐久性の向上という課題が残っている.耐久性向上にはホールスラスタの磁場形状や加速チャンネル形状の最適化が不可欠であるが,従来の数百時間作動させた後の形状変化を見る耐久試験では,最適化するためには時間がかかりすぎ,現実的ではなかった. そこでこれに変わるリアルタイムで定量的に寿命が計測できるキャビティリングダウン分光法を用いた寿命評価システムを開発してきた. 本年度は、このシステムの改良に取り組んだ.具体的には損耗率をほぼリアルタイムで算出出来るプログラムを新たに構築した.次に,宇宙空間を模擬した真空容器内にホールスラスタおよび寿命評価センサを設置し,構築したプログラムを用いて寿命の評価を行い,正しく作動する事を確認した.さらに寿命と磁場依存性を調査し,磁場の増加に伴い耐久性が向上している事を確認した. これと並行してホールスラスタ制御用の電源の改良を行い,実際にスラスタとかみ合わせて実験を行い,作動する事を確認した. さらに、壁面に衝突するイオンの生成・加速過程との関係を定量的な解明のためにはホールスラスタ内部のプラズマ密度や電子温度を計測する必要がある.これにはプラズマに擾乱を与え内で測定できるレーザー-トムソン散乱法を用いるのだが,感度および測定精度が足りなかった.そこで,感度および精度の向上を目指して,イオンエンジンのコンポーネントであるマイクロ波放電型中和器のプラズマの計測を通してレーザートムソン散乱法の改良を試みた.
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