研究概要 |
海洋生物(魚類や動物プランクトンなど)の調査で使用されている既存の音響探査システムの送受波器(音波を送波・受波するセンサー)は,ある単一の周波数の音波(狭帯域音波と呼ばれる,例えば38kHz)しか使えず,エコー(生物に当たって跳ね返ってきた音波)からサイズや分類群といった生物学的情報を抽出することは難しい。そこで,リニアFM信号といった広帯域音波が扱える送受波器を開発し,エコーから生物学的情報を多く抽出できる広帯域音響探査システムが必要であると考えた。 平成23年度は,30~150kHzで使用可能な送受波器を開発した。デジタルカメラのオートフォーカスなどに使用される積層圧電アクチュエータ(以降,積層圧電素子と呼ぶ)を送受波器の圧電素子として採用している点が特長である。所望する周波数帯の高周波側をカバーするために共振周波数138kHzである長さ10mmの積層圧電素子を使用した。また,低周波側をカバーするために52個の積層圧電素子を厚さ13mmのアクリル板で挟み込んだランジュバン構造とし,40kHz付近に共振周波数を持たせた。この方法により広帯域化を実現した。アクリル板は円形とし,海洋生物の音響探査に適切なビーム幅(27°~5.4°)も実現した。なお,塩化ビニル製のケースに納めて水密を保ち,実海域での使用に耐えるものとした。さらに,市販の計測機器を組み合わせた実験システムを構築し,金属球を使用したシステムの較正方法,ターゲットストレングス(生物1個体の音波反射強度)スペクトルの測定方法を信号処理まで含めて確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
広帯域送受波器の開発だけでなく,市販の計測機器を組み合わせた実験システムを構築し,金属球を使用したシステムの較正方法,ターゲットストレングススペクトルの測定方法を信号処理まで含めて確立し,当初の計画以上に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
送受波器の送波感度と受波感度の周波数特性には反共振と低感度帯が存在するため,エコーの信号対雑音比が低い帯域が存在する。そこで今後は,信号対雑音比を向上させるために,ソフトおよびハードの両面から適切な送受信系を構築する。さらに,体積後方散乱強度(生物群集の音波反射強度)スペクトルの測定を可能とするため,その信号処理アルゴリズムの検証をシミュレーションと実測の両面から行う。
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