現在,一般的に利用されている海洋生物(魚類や動物プランクトンなど)調査用のエコーサウンダーは,狭帯域(ナローバンド)の音響信号を利用している。狭帯域=扱える情報量が少ないため,海洋生物のエコーからロバストで多くの生物学的情報(サイズ,密度,分類群,行動)を抽出することは非常に難しい。そこで,本研究では,扱える情報量が多い=広帯域(ブロードバンド)の音響信号が利用できるエコーサウンダーを開発している。 昨年度の東京海洋大学練習船海鷹丸による南大洋観測で得られたナンキョクオキアミのエコーデータを解析し,サイズ推定することに成功した。ネット採集で得られたサイズとほぼ同じであり,本システムと解析手法の有効性が確かめられた。今後,論文としてまとめ公表していく予定である。 昨年度までに構築した実用的なシステム(以降,実用機と称す)の海上試験を行った。システムを小型化したので調査船での使い勝手が格段に向上した。受波器に内蔵したプリアンプによって信号対雑音比の高いエコー波形が収録できることを確かめたが,ケーブルの接続不良による電気的なノイズも確認された。この点については今後改良する予定である。 平成27年1月には海鷹丸による南大洋調査において,ナンキョクオキアミの観測を行った。実用機の導入には多少の不安があったので,試作機の12-bit ADボードを実用機の16-bit ADボードと交換し,ダイナミックレンジを拡張した試作機を調査に持ち込んだ。信号対雑音比が十分に高いナンキョクオキアミと思われるエコーデータを収録することに成功し,今後,解析を行っていく予定である。観測はナンキョクオキアミのパッチを船底エコーサウンダーで発見後に停船して行うが,ナンキョクオキアミが船体から逃避していることが推察された。今後は曳航体に送受波器を装備するなどして,航走観測も行えるようにする必要がある。
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