研究概要 |
名古屋大学の直線型装置NAGDIS-IIにおいて,タングステンに定常プラズマ(ヘリウムプラズマ)を照射し,ヘリウム照射損傷を与えたタングステンに対して,パルス的熱負荷(パルスレーザー)を与えし,単極アーク/アークを発生させた。アークの発生条件を明らかにするために,様々な条件を変化させながら,実験を行った。その結果,(1)ヘリウムフルエンズの増加に伴いアークの発生が著しくなること,(2)ペリウム照射により一旦ナノ構造ができると,プラズマの密度が低くても(10^<17>m^<-3>以下でも),アークが発生してしまうこと,(3)ナノ構造ができている場合には,レーザーのパワーが低くても(100kJ/m^2以下でも)アーキングが発生してしまうこと,(4)アークの発生には電極のポテンシャルが-50V以下である必要があり,それ以上では発生しないことが明らかになった。この実験結果から,ナノ構造が形成された場合には,核融合炉で極めてアークが起きやすい条件になっていることが示唆された。 アーク痕の断面図をFIB(集束イオンビーム)で加工しTEM(透過型電子顕微鏡)観察を行った結果,アークが通った跡は,ナノ構造が消滅している様子が明らかになった。ただし,アーク痕のあとにおいても,バブルが残っている層が残っており,ナノ構造が完全には壊されていないことが分かった。TEM画像をディジタル化して,ナノ構造の消滅量を評価したところアークによっておよそ半分程度のナノ構造を形成しているタングステンは消滅しているもののおよそ半分は,表面に残っていることが明らかになった。FIB-TEMの観測結果をもと,アークによるタングステンの放出量の算出した結果,アーキングにより放出されるタングステンは10mg/sと算出された。これは,理論的に予測されている値に比べて大きな値であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アーキング実験を基に,アーキングの発生条件を特定するとともに,アーキングに伴うタングステンの放出量に関する見積もりを実施し,またアーキングの計測用の高速カメラや分光器等の準備を実施してきており,当初の計画は順調に進行していると言える。更に,当初計画していなかったLHDにおけるアーキングの計測などの成果が上がってきており,計画以上の進展と言える。
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今後の研究の推進方策 |
アークプラズマの温度密度計測を実施するとともに,表面構造変化に伴う電界放出係数等の変化の効果を明らかにする。計測は分光計測を中心に,そこからヘリウム線強度比を用いた計測や,シュタルク広がりを使った密度評価などを試みる。さらに,それらの実験結果をもとに,アークスポットの物理を解明するために,理論的な側面からロシアの研究者との共同研究を進める。
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