本研究の目的は、物質内部を微視的に探ることができる重要な測定手法である核磁気共鳴(NMR)法を用いて、マイナーアクチニド含有酸化物燃料における自己照射効果に伴う欠陥の形成と蓄積のプロセスを明らかにすることである。平成24年度に行ったAmO2試料におけるNMR測定では、低温で線幅の狭いスペクトルと極端に幅の拡がったスペクトルの2種類が同時に観測された。さらに同じ試料を1ヶ月低温に保管した後に測定すると、今度は極端に幅の拡がったスペクトルのみが観測された。この結果は、合成直後の試料においては内部磁場を持たない酸素サイトと不均一な内部磁場を持った酸素サイトがミクロに混在していること、さらにそれが時間の経過とともに不均一な内部磁場を持った酸素サイトのみになることを示している。 この興味深い現象の起源を明らかにするために、平成25年度は同じ蛍石型の結晶構造を持つウラン-ネプツニウム混晶酸化物(Np0.85U0.15O2)を準備し、結晶中に人為的に乱れ(ランダムネス)を生じさせた場合にどのような電子状態が実現するかをNMRにより調べた。その結果、AmO2と同様の極端に幅の拡がったスペクトルが観測された。このことはAmO2におけるスペクトルの急激な経時変化が、自己損傷効果により生じた結晶中の乱れ(欠損、歪み)を起源にしていることを強く示唆している。また低温では熱的なアニールの効果が小さくなるため、結晶の乱れが急激に蓄積され、それが電子状態に非常に強い影響を与えていると考えられる。本年度はさらにAmO2のNMR緩和時間の温度依存性の解析も行い、電子状態の不均一な分離が40K程度の温度領域からすでに始まっていることも明らかにした。
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