研究課題/領域番号 |
23687004
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中川 聡 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (70435832)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 深海底熱水活動域 / 共生 / 生物間相互作用 / 糖鎖 / グライコミクス |
研究概要 |
本研究の目的は、深海底熱水活動域において絶対的な共生関係にある微生物―大型生物間の相互作用を、第三の分子生物学(=グライコミクス)の観点から分子レベルで解明することにある。具体的には、これまでの研究において様々な共生系に見いだしてきた特異糖鎖の機能解析およびその認識分子(レクチンやTLR)の網羅同定・発現解析・各分子間相互作用の定量化により目的を達成する。 平成24年度は、計画していた目標を全て達成し、想定していた以上の成果を得た。本年度は、中部沖縄トラフに位置する深海底熱水活動域(水深約1000m)に特異的に棲息する大型生物試料(本研究において平成22年度、独立行政法人海洋研究開発機構の無人探査機を用いた研究航海を実施し採取・調整した)を用いて、その共生微生物の特異糖鎖を認識する分子を探索し性状を解析した。昨年度の研究において解明した共生微生物特異糖鎖の作用部位に注目し、当該糖鎖へのアフィニティークロマトグラフィーおよびイオン交換を組み合わせて用いることにより、糖鎖認識分子を検出・精製することに成功した。その存在量や生化学的性状を解析するだけでなく、蛍光ラベルした分子を新たに調整し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて共生微生物を含む各種微生物細胞との相互作用をイメージ解析することに成功した。加えて、本年度はインド洋中央海嶺の深海底熱水活動域における研究航海に参加し、平成25年度に行う解析に必要となる試料を採取することにも成功した。なお、以上に関連する成果の一部は複数の学会や国際誌上で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は深海底熱水活動域に棲息する甲殻類において、共生微生物の特異糖鎖を認識する分子を探索し性状を解析した。各種クロマトグラフィーを組み合わせ、糖鎖認識分子を検出・精製・性状解析することに成功するだけでなく、共生微生物を含む各種微生物細胞との相互作用をイメージ解析することに成功した。加えて、ペプチドマスフィンガープリンティング法を用いて認識分子の部分アミノ酸配列を解析することにも成功するなど大きな成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、これまでの研究において細胞外共生系および培養微生物株を対象として確立してきた方法論を、共生微生物分離株の得られない細胞内共生系(環境獲得型細胞内共生。おもにインド洋由来)に適用する。本共生微生物の培養株は得られていないが、これまでの研究においてメタゲノミックな手法(細胞内共生微生物を分取する手法を開発)により、既に全ゲノム配列の解読に成功し、培養可能な微生物とシンテニックな糖鎖関連遺伝子クラスターを見いだしている(発現も確認済)。おもに平成21年度および24年度に実施した航海において採取した個体を用いて、本細胞内共生系においても、これまでに確立した方法論に基づいて共生微生物の特異糖鎖の機能解析と認識分子の同定を行い、1-2年目の研究で既に得られた知見と比較することにより、深海底における糖鎖を介した異種生物間の相互認識・相互作用機構を体系化する。具体的には、共生微生物が有する糖鎖だけでなく、その異性体糖鎖ライブラリを作成し、それを微生物サイズの蛍光ビーズにヒドラジド基を介して付加した「共生微生物アナログ」をエリシターとして用いることで、特異糖鎖の影響を解剖学的に可視化・定量化すると共に、翌年度に行う免疫学的解析の基盤を確立することが可能となる。加えて、本年度は平成26年度に行う解析に必要となる、リポ多糖とO結合型糖鎖(センサーチップ固定用)の構造解析を行なう。
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