植物は葉緑体チラコイド膜に存在する光化学系タンパク質と集光アンテナタンパク質の相互作用を様々な様式で変換させることで、効率の良い光合成反応を維持していることが知られている。本研究では、ゲノム解読によって新しく発見されたコケ植物ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)特有の集光アンテナタンパク質(Lhcb9)に着目し、生化学的解析を主軸に研究を行った。ショ糖密度勾配超遠心による光化学系タンパク質複合体の分離を行ったところ、P. patensには、陸上植物に存在する光化学系1(PSI)超複合体に加えて、Lhcb9が特異的に結合し分子量の大きいPSI超複合体も存在していることが分かった。Lhcb9の欠損株の解析を行った結果、通常のPSI超複合体は形成されるが、大きいPSI超複合体は形成されなかった。Lhcb9-His変異株を作成し、ニッケルカラム精製を行ったところ、Lhcb9とPSI超複合体が結合していることを裏付けることができた。時間分解蛍光解析によって、大きいPSI超複合体での光エネルギー伝達も確認した。これらの結果は、P. patensには2種類のアンテナサイズを持つPSI超複合体が存在することを示唆する。また、光環境変化によるストレスを与えると、Lhcb9を含むPSI超複合体が減少することが分かったことから、Lhcb9による光エネルギー伝達の調節が行われていることも考えられる。系統樹解析によると、P. patensが持つ集光アンテナタンパク質の中で、唯一Lhcb9は緑藻のそれと相同性が高いことが分かり、植物が陸上に進出する際の光エネルギー制御機構に重要であった可能性も示唆された。
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