昨年度までに開発したメラトニンを合成できるC57BL/6Jコンジェニックマウスについて、さまざまな時間帯にサンプリングして松果体および血中のメラトニン濃度を精査した。遺伝子型としてはメラトニンを合成できるマウスに関して、その松果体内のメラトニン量は、メラトニン合成能を維持している野生由来系統のマウスと同じような日内変化および存在量であった。しかし、血中濃度は非常に低いレベルであった(ただし、検出・定量は可能であり、メラトニン合成能を失っている純粋なC57BL/6Jマウスとは大きく異なる)。血中のメラトニンの分解が速いのか、松果体から血中に分泌されにくいのかなど、調べる必要があるだろう。ただ、昨年度行った行動テストバッテリーでは、記憶やうつ様行動に変化が見られることや、(標準的な)メラトニン受容体は脳内(視床、視床下部、下垂体など)に局在していることを考慮すると、脳脊髄液中のメラトニン濃度は野生由来系統のマウスと同等に夜間に増加していると期待される。しかし、脳脊髄液中レベルに関しても測定する必要が今後あるだろう。また、メラトニンやその前駆体(N-アセチルセロトニン、NAS)の生理学的な役割について、いくつかの示唆的なデータをさらに得た。オスマウスとメスマウスを同居させて交配・繁殖させる際に、メラトニンやNASを合成できるマウでスは妊娠が成立するのに日数がかかることに気が付いた。また、チミジンのアナログであるEdUを用いて神経新生を調べたところ、メラトニンやNASを合成できるマウスの海馬の歯状回において神経新生が亢進していた。
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