フラミンゴシクリッドには体色二型(ゴールドとノーマル)が存在する。これらは互いに交配が可能であるにもかかわらず、自然界では95%以上が同色個体でペアを形成する。ゴールドの形質は優性遺伝し、約300個体のF2を用いて原因遺伝子座の染色体マッピングを行ったところ、候補領域に7個の遺伝子を見出した。これらのうちドーパミンD2型様受容体(drd2-like)の配列を両者で比較したところ、脊椎動物で広く保存されているアミノ酸がノーマルにおいて置換していることがわかった。この結果は、ノーマルがゴールドの派生型であることを示唆する。すなわち、祖先型がゴールドであり、drd2-likeに劣性のミスセンス変異が起きたことでノーマルが生じたと考えられる。 drd2-likeの分子系統解析を行ったところ、D2に最も近縁ではあるが、ほ乳類で知られるD1~D5のいずれとも相同ではない魚類特異的なドーパミン受容体であることが判明した。メダカの相同遺伝子を単離して発現を調べたところ、特に脳や目で強く転写されていた。このdrd2-likeの機能を解明するために、TILLING法を用いて3つのミスセンス変異メダカ系統を樹立した。ヘテロ同士を交配すると野生型ホモとヘテロと変異型ホモが1:2:1で生じるはずであるが、うち2系統では変異型ホモの出現頻度が有意に低く、何らかの要因で性成熟前に死んでしまうらしかった。残りの1系統では変異型ホモが正常に育ったが、体色への有意な影響はみられなかったため、このミスセンス変異が受容体機能を十分に損ねていない可能性が疑われる。 近年開発されたTALEN法によるフレームシフト変異系統、およびゴールド型とノーマル型のdrd2-likeを発現するトランスジェニック系統の樹立にも成功しており、今後これらの表現型を解析することで、drd2-likeと体色および配偶選択との因果関係を解析する。
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