研究概要 |
パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで2番目に高い罹患率を示す老人性神経変性疾患である.病気が発症する仕組みの解明と,その知見を活かした根本的な治療法の確立が強く求められているが,その発症機構には未だ不明な点が多く残されている. 申請者は研究計画に記したようにPINK1の基質を探索する過程で,PINK1自身がリン酸化をされていること,言い換えると「PINK1自身が基質である」可能性を見出した.そこで,この点に関して詳細な解析を行ない,1)PINK1がミトコンドリアの膜電位の低下に伴って自己リン酸化されること,2)このPINK1の自己リン酸化は種々の患者由来の変異で阻害されること,3)このPINK1の自己リン酸化はPINK1自身のキナーゼ活性に依存すること,を見出した.さらにMS解析とセリン/スレオニンに対する変異解析を組み合わせてPINK1の自己リン酸化部位Xを同定し,4)この部位をアラニンに置換した変異PINK1はParkinをミトコンドリアに移行させることができないのに対して,この部位をアスパラギン酸(リン酸基を模倣するアミノ酸)に置換するとPINK1は自己リン酸化非依存的にParkinをミトコンドリアに移行させること,を明らかにした. 「PINK1がどのようにしてミトコンドリアの膜電位の低下を認識しているのか」について現在主流の仮説はPINK1の膜電位依存的な分解に注目したものであるが,上記の成果は現在の仮説に「PINK1の部位Xにおける自己リン酸化」という新しい視点を持ち込むものであり,大きなインパクトを有している.上記内容は当該年度に論文にまとめて,投稿した. また,ParkinのE3酵素活性(ubiquitin ligase活性)がミトコンドリア膜電位の低下によって上昇する仕組みについても,ParkinのドメインYがC-末端のubiquitin ligase酵素活性を抑制している可能性を見出しており,その仕組みについて更なる解析を行なう為の準備(予備実験など)を行った.
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