研究概要 |
生命機能を司るタンパク質分子は、適切な「場所」で、かつ「時々刻々」その姿を変えることで、最終的な生理応答を担っている。そのため、機能の本質的な理解には、「場所=空間」と「時々刻々=時間」の理解を突き詰めていくことが重要となる。本研究は、細菌の情報伝達を生物物理学的に原子レベルの「空間」分解能、ピコ秒の「時間」分解能で解き明かすことを目的としている。そのため、1) 情報入力部位、2) 伝達部位、3) 出力部位について統合的・網羅的な解析を行っている。本年度は、以下の成果を得た。 [空間]:光照射固体NMR分光法を用いて、発色団レチナールのシスートランス構造をÅレベルで明らかにした【Yomoda et al., 2014, Angew. Chem. Int. Ed.】。また、様々な発色団アナログを有機化学的に合成し、その取り込み速度から、結合部位の詳細解析を行った【Mori et al., 2013, Chem. Phys.】。 [時間]:超単パルスレーザーによる過渡吸収・蛍光スペクトル変化から、50フェムト秒での超高速異性化反応を直接捉え、ラマン分光法によりピコ秒での分子構造変化を捉えることに成功した【Sudo et al., 2014, J. Phys. Chem. B】。また、時間分解赤外分光法により、ナノ秒からマイクロ秒での大域的な分子構造(βシート)を捉えることに成功した【Furutani et al., 2014, J. Phys. Chem. B】。さらには、分子機能の変換を通じて、ペタ秒で起こった分子進化について考察した【Sudo et al., 2013, J. Biol. Chem.】【Tsukamoto et al., 2013, J. Biol. Chem.】。 このように、空間・時間領域ともに、計画した分解能を越えるレベルでの構造・構造変化解析に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、様々な手法を駆使して、時空間分解の限界に挑戦する。具体的には、 [1] 空間領域: これまで成果があがっているNMR分光法と振動分光法を軸に、最終年度は、様々な原子団を同時に捉えることの出来るX線結晶構造解析にも力を入れる。また、反応遷移状態の高分解能測定にも力を入れる。既に、結晶化に適した好熱菌由来の安定な分子の取得に成功し【Tsukamoto et al., 2013, J. Biol. Chem.】、結晶化にも成功している。良好な回折パターンも得られており、順調に進んでいる。 [2]時間領域では、サブフェムト秒レーザー(NOPA)を用いて、光センサー分子の変化を捉えつつある。吸収・蛍光による解析よりも、官能基の変化が捉えられるため得られる情報量が多い。異性化反応(~100フェムト秒)をリアルタイムで捉え、反応の根本原理の解明を目指したい
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