研究課題/領域番号 |
23687020
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松尾 光一 広島大学, 放射光科学研究センター, 助教 (40403620)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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キーワード | 真空紫外円二色性 / リポソーム / 円二色性理論 / 蛋白質二次構造 / 線二色性 / アミロイド線維 / 芳香族アミノ酸側鎖 / 国際情報交換(USA) |
研究概要 |
放射光真空紫外円二色性(VUVCD)を用いた蛋白質構造解析法の構築を進めた。以下に研究内容の概要を記す。 1 真空紫外円二色性と線二色性(LD)による膜結合蛋白質の二次構造の配向解析:Flow型LD(FLD)観測システムを利用することで、3種の膜結合蛋白質のFLD測定を実施した。膜と結合したへリックス構造に由来するFLDの詳細な解析により,膜表面に対するへリックス構造の配向を明確化した。また当該研究で高度化したアミノ酸配列レベルでのへリックス構造の位置解析と組み合わせ、どの部位がへリックス構造を形成し生体膜と相互作用しているかを明らかにした。 2 VUVCD実験と理論を用いたアミロイド線維の分子間構造の解明:β2-microglobulinコアフラグメントの溶液中でのアミロイド線維のCDスペクトルを、近紫外から真空紫外領域まで放射光を用いて高精度で測定した。このスペクトルには、二次構造だけでなく三次構造(芳香族アミノ酸側鎖)の寄与が多く含まれることが分かった。フラグメントから形成可能なアミロイド線維のモデル構造を原子レベルで網羅的に構築し、分子動力学とCD理論からスペクトルを計算した結果、アミロイド線維のβシートが逆平行で積み重なったモデル構造を使用した場合で、実測スペクトルを再現できた。アミロイド線維内の分子間芳香族アミノ酸側鎖が、3種の配向パターンで存在することを明らかにした。 3 VUVCDとバイオインフォマティクス技術を融合した天然蛋白質構造の解析:VUVCD分光から得られる蛋白質二次構造情報(含量・本数・配列)を、アミノ酸配列から蛋白質三次構造を予測できるMD法やHomology modeling法の制約条件として利用した。両手法から、制約条件に適合した構造を得ることに成功した。しかし、適用できる蛋白質分子が非常に小さいこと等のいくつかの課題を残した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下の利用により、当初の計画以上に進展していると評価した。 1.生体膜と結合した蛋白質の精密構造解析:送液ポンプとFlow光学セルを組み合わせたFlow型LD観測システムはVUVCD装置に設置され、標準試料となるDNAを用いた性能評価は終了した。応用研究として、3種の膜結合蛋白質のへリックス構造の生体膜内での配向情報を明確化でき、論文作成中である。現在では、生体膜と結合したα1酸性糖蛋白質の構造解析への応用研究に着手している。 2.アミロイド線維の精密構造解析:本研究は、VUVCD実験・MD法・CD理論を組み合わせることで、蛋白質の3次構造に近い情報を得ることが目的である。我々はこの手法から、β2-microglobulin (β2m)の断片ペプチド#21-29から形成されたアミロイド線維の分子間構造を調査し、溶液中における芳香族アミノ酸側鎖の配向パターンを解明することに成功した。この研究内容はすでに論文で公表されている。また、プレスリリース発表(記者会見)を行うことで、当該研究内容の重要性を新聞・メディアに発信した。 3.天然蛋白質の構造解析:本研究は、VUVCD分光法にバイオインフォマティクス技術等の計算科学的手法を融合した蛋白質構造解析法の開発を進めることが目的である。現在、既存のVUVCDによる蛋白質の二次構造解析の高度化が終了している。また二次構造の位置情報を,アミノ酸配列情報から立体構造が予測可能なHomology modeling法に組み込むことができる手法を構築している。 4 円二色性国際ワークショップの開催:当該研究を含めたVUVCDによる生体分子構造解析の研究成果を広く一般に開示するために,円二色性研究分野の国内外の専門家(14名)を招聘し円二色性国際ワークショップを開催した。(広島,2014年3月4日)
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究方針を以下に示す。 1 VUVCD及びFlow型LD測定システムを用いて、α1酸性糖蛋白質の生体膜との詳細な相互作用機構および構造と機能の関係(薬物輸送機構)を明らかにする。また、時間分解CD測定システムを構築し,生体膜相互作用によって誘起される蛋白質の構造変化について時間軸を加えて詳細に調べる。これらの研究を通して、VUVCD分光法を用いた蛋白質-生体膜相互作用系の精密構造解析法を確立する。 2 VUVCD分光法にバイオインフォマティクス技術等の計算科学的手法を融合した蛋白質構造解析法の開発をさらに進める。三次構造の予測法としては、従来通り分子動力学法及びHomology modeling法を用いる。VUVCDにより得られる蛋白質の二次構造の位置情報と一致するまで計算を繰り返すことができる新たな解析プログラムを開発する。
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