研究課題/領域番号 |
23687023
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
寺薗 英之 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (30398143)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | センサアレイ計測 / CMOS / 細胞ネットワーク / 神経細胞 / ナノ加工技術 / 細胞外電位計測 |
研究概要 |
デジタルカメラなどに利用される2次元センサアレイの原理を利用してマルチアレイ型の細胞外電位計測法の開発を行った。 本年度の研究目標としては、CMOSセンサアレイ上での細胞外電位計測を目標に研究を進めた。2012年度、光をセンサに集光するためのマイクロレンズアレイ、フォトダイオードを搭載しないタイプの高感度CMOSセンサアレイを新しく採用することにより細胞外電位のシグナルをより検出しやすい細胞外電位記録用のデバイスの作製・並びにソフトウェアの開発を行った。2012年度開発に成功したCMOSセンサアレイ上での細胞培養法を用いることで検討を進めた。その際、神経細胞より細胞外電位シグナル強度が強く、活動の様子を顕微鏡下で観察が出来る心筋細胞で評価を行った。 その結果、当初、心筋細胞がCMOSセンサアレイ上で拍動の様子が認められ活動している事が観察できたが電気生理学的な活動を確認できなかった。その後、信号処理の方法を変更するデバイスを作製することで、シグナル様の波形を各素子上で確認できた。そこで現在、得られたデータからハイパスフィルターやフーリエ変換技術を含めた様々な波形処理技術、画像解析技術が可能なソフトウェアを新規に開発することによりシグナル/ノイズ比を上げ、得られたデータが真に細胞外の活動を捉えているのかを確認中である。 また、開発を進めるにあたりバイプロダクトとして、電気生理的な活動を保持する初代培養細胞を用いて研究を迅速に進めるため、胎仔由来の神経細胞並びに心筋細胞の初代培養凍結保存技術の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度以降の目標としてセンサアレイ上での細胞培養と細胞外電位計測を掲げて進めてきた。当初、CCDセンサアレイによる開発を掲げていたが、通常CCDセンサアレイは、カメラに使用されるためにセンサアレイの上面にフォトダイオードアレイ、マイクロレンズアレイをすでに加工した物しか出荷をしない。しかしながら、細胞は直接センサアレイに接触しないと細胞外電位を計測できない。そこで、最初から開発しようとしたが、1億円以上の費用がかかる事が判明した。 ただ、CMOSセンサであればセンサアレイで購入できることから、研究2年度目より、CMOSセンサアレイを用いて検討を進めることにした。 通常、水分を嫌う半導体素子上で電気分解が起こりやすい培地を乗せての細胞培養にも困難があったが、計測も可能で電気分解も起きないコーキング方法の開発にも成功した。また、コーキング剤も種類により細胞毒性を持つものが存在し、安定的に細胞をセンサアレイ上で培養できるようになった点で研究が進んでいると自己評価する。 今年度、これらの技術を用いて心筋細胞ではあるが、CMOSセンサアレイ上での細胞培養に成功し、活動電位様のシグナルを取得し、現在、協力企業と解析を連携して進めている。 また、本研究のバイプロダクトであるが、評価に使用する素材である細胞もCMOSセンサの仕様変更に応じていつでも供給可能にした凍結保存技術の開発にも成功した。いつでも細胞培養できる技術として株化細胞が存在するが、細胞外電位を発するものは存在しない。そのため細胞外電位を測定するためには胎仔から採取される初代培養細胞を用いる必要がある。初代培養細胞を胎仔から採取するためには多くの時間を要する。この初代培養細胞を凍結保存し、必要に応じて使用する技術を確立した事は今度の研究を迅速に進める上で、重要な技術となる。その点でおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度得られた心筋細胞からの結果を引き続き波形解析・画像解析し、シグナル/ノイズ(S/N)比を上げる工夫を行う。さらに心筋細胞で得られた結果を神経培養の可能性についても引き続き検討を進める。具体的にはセンサアレイに神経細胞を接着するための表面処理の検討、培養を行った際の細胞外電位を測定できるか実際に計測を行う。測定できた場合、よりシグナル/ノイズ(S/N)比を上げる工夫を行う。シグナルが弱い場合、CMOS信号処理法の変更、オフライン解析を進める。さらに、「センサアレイ上に神経細胞をパターニングするための技術開発と人工神経ネットワークの機能解析」として、引き続きマイクロコンタクトプリンティング技術を用いて素子上に神経細胞が選択的にパターニングできるかの検討を行う。具体的には、神経細胞の接着培養に汎用的に使われるポリ-L-リジンを中心に、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンを単独あるいは組み合わせにより接着性の高い条件を検討する。開発した技術を用いて神経細胞の数やネットワークを複雑にしたときに起きる神経ネットワークの経時的変化を多点同時に検出することで、神経ネットワーク内で情報処理がどの様に行われているか検証を進める。その際、CMOSセンサアレイの数が必然として多くなるため、一度にはき出すデータが膨大になる可能性が高い。そのため、これらの大規模データを処理できるアルゴリズムを株式会社ディテクトと協力し開発を進める。これにより神経細胞ネットワークが持つ信号処理機構のメカニズムの解明に向けて研究を進める。
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