研究概要 |
卵母細胞は受精によってすべての細胞に分化しうる全能性を獲得し接合子へと変化する.申請者らは線虫C.elegansを用いた解析から,この受精前後の時期には卵母細胞内のオルガネラの形態や組成がダイナミックに変化することを報告してきた.さらに,父方(精子)に由来するミトコンドリアやMO(membranous organelle)といったオルガネラの受精後の運命にも注目して解析を行ったところ,これら父性オルガネラは受精によって卵母細胞に持ち込まれるが,胚が16細胞期に到達するまでにすみやかに分解され受精卵から排除される現象を見出した.この分解を担うメカニズムをRNAiによるノックダウンや線虫変異体を用いて探索した結果,オートファジー経路の変異体において父性オルガネラの分解が阻害されることが明らかとなった.また,オートファゴソームの動態を解析したところ,受精直後,侵入した精子成分の周囲にオートファゴソームが形成され,このオートファゴソームに父性オルガネラが選択的に取り込まれ分解されることを明らかにした.ミトコンドリアゲノムは母性遺伝することが広く知られているが,これまでその具体的なメカニズムはよくわかっていなかった.申請者らはミトコンドリアゲノムの遺伝という観点からも解析を行い,オートファジーによる父性ミトコンドリアの分解がミトコンドリアゲノムの母性遺伝を成立させるために必要であることも明らかにした.また,オートファジー経路の必須因子の破壊株は胚発生後期,または孵化した直後の第一幼虫期で致死となったことから,オートファジーの活性が正常な発生に必須であることが判明した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,父性オルガネラが受精卵において選択的に分解される詳しいメカニズムを明らかにするため,それに関わる因子を線虫の遺伝学的手法を用いて探索する.また,受精後に起きる母性膜タンパク質のエンドサイトーシスによる選択的分解のメカニズムについても,すでに得ている関連因子の機能解析を進める.
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