研究課題/領域番号 |
23687031
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西村 隆史 独立行政法人理化学研究所, 成長シグナル研究チーム, チームリーダー (90568099)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 生理学 / 発生・分化 / 遺伝学 / 蛋白質 |
研究概要 |
本研究は、アミノ酸シグナル応答という普遍的な分子基盤の一端を理解することを目的とする。当初の予定通り、アミノ酸シグナルに関与する分子Ragの新規結合蛋白質を生化学的手法により解析し、糖代謝酵素の一つであるGAPDH を同定した。さらに、この結合はRag GTPaseのGTP・GDP依存性があることを確認した。また、哺乳類培養細胞を用いた解析から、GAPDHの発現抑制によりアミノ酸シグナルが減弱すること、同時にTOR複合体の局在異常が起こることが観察された。よって、GAPDHとRagの結合は、アミノ酸シグナルにおいて何らかの意義を持つ可能性が考えられる。 並行して当初の予定通り、ショウジョウバエ個体におけるアミノ酸シグナルの重要性および生理的意義を明らかにする目的で、遺伝学的解析を行った。2011年度、栄養摂取により生産され個体成長を促すインスリン様成長因子の発現調節機構を明らかにした(岡本ら、PNAS、2012)。しかしながら、栄養シグナルと発現調節の間には、不明な点が残されている。2012年度は、この研究結果をさらに発展させ、餌由来の栄養分として蛋白源が重要であること、栄養依存的な発現調節には転写因子Foxoが関与すること、Foxoの局在機能はチロシンリン酸型膜貫通蛋白質Alkが重要であること、を明らかにした。 また、個体サイズを指標としたRNAiスクリーニングを行い、インスリン様成長因子の“おとり受容体”として機能する新規の分泌性蛋白質SDRを見いだした(岡本ら、Gene Dev、2013)。SDR変異体は、通常の餌では致死性を示さないものの、希釈された餌では蛹期における致死性を示した。これらの結果により、栄養レベルに応じた個体成長の調節機構が重要であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、アミノ酸シグナルに関与する分子RagA/Cの新規結合蛋白質を生化学的手法により同定し、その性状解析を行った。さらに、哺乳類培養細胞を用いた実験およびショウジョウバエを用いた遺伝学的解析により、機能解析を進めている。また、2011年度の結果をもとにして、栄養状態に応じたインスリン様成長因子の発現調節機構を解析した。栄養シグナルと成長因子調節機構の間を理解することは、生物学上の重要課題であると考える。本年度の成果により、アミノ酸シグナルに応答する細胞や組織を明らかにし、成長因子の発現調節へとつながる細胞間シグナル伝達を理解するための、実験基盤が整えられたと考える。 また、ショウジョウバエを用いたRNAiスクリーニングにより、新規の成長制御因子を同定した(岡本ら、Gene Dev、2013)。この結果はプレス発表を行い、複数の新聞メディアに取り上げられた。この蛋白質は、アミノ酸シグナル伝達そのものには直接関与しない。しかしながら、個体成長には栄養源が必要であるため、個体レベルにおけるアミノ酸シグナルの生理的意義を理解する上で、重要な知見になると考えられる。またこの蛋白質は、栄養状態に応じた発現分泌制御を受けない恒常的な成長制御因子であることが明らかになった。この蛋白質の変異体解析をさらに進めることで、アミノ酸シグナル応答と成長調節機構の分子基盤がさらに解明するものと考えられる。来年度は、本年度の結果をさらに発展させ、RagとGAPDH結合に関する生理的意義を解析していく。また、アミノ酸シグナル伝達による個体成長の制御機構を解析する予定である。申請書に記載した「研究の目的」に対して、順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られた結果をさらに発展させ、蛋白質間の相互作用に基づく機能解析を進める。哺乳類培養細胞を用いた実験、およびショウジョウバエを用いた遺伝学的解析の両方を多角的に進めることにより、アミノ酸シグナル伝達経路に関与する普遍的な分子基盤の解明が期待できると考える。現段階で、研究計画の変更は特にない。
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