本研究は、アミノ酸シグナル応答という普遍的な分子基盤の一端を理解することを目的とする。アミノ酸シグナルに関与する分子Ragの新規結合蛋白質を生化学的手法により解析し、糖代謝酵素の一つであるGAPDH を同定した。最終年度はショウジョウバエの分子遺伝学を利用して、アミノ酸シグナル伝達経路におけるRagとGAPDH相互作用の生理的意義を解析した。アミノ酸センサーとして働き個体成長に重要な役割を果たす内分泌器官の脂肪体に着目し、遺伝学的相互作用を解析した。RagとGAPDHの遺伝子発現をRNAi法により抑制することで、栄養依存的な個体成長における抑制効果が相乗的に観察された。さらに、栄養摂取状態に応じたRagやGAPDHの細胞内局在を解析する目的で、transgenic flyの作成を行っている。 並行して、ショウジョウバエ個体におけるアミノ酸シグナルの重要性および生理的意義を明らかにする目的で、遺伝学的解析を行った。2011年度、栄養摂取により生産され個体成長を促すインスリン様成長因子の発現調節機構を明らかにした(岡本ら、PNAS、2012)。しかしながら、栄養シグナルと発現調節の間には、不明な点が残されている。最終年度は、インスリン様成長因子を発現する神経内分泌細胞がどのように栄養シグナル、特にアミノ酸シグナルを受容認識しているのか解析した。その結果、脳グリア細胞がアミノ酸シグナルの認識に重要な役割を果たすことが明らかになった。インスリン様成長因子を発現している神経内分泌細胞自身が細胞自立的にアミノ酸を認識しているわけではなく、細胞間の相互作用が重要であることを意味している。さらに研究を進めることで、個体レベルでのアミノ酸認識機構と個体成長の間をつなぐ分子基盤の理解が深まるものと考えられる。
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