本研究では人工自己複製反応を実験的に進化させることにより、自己複製反応系は進化して生命の特徴である高効率性を獲得することができるのか、その進化プロセスがどのように進行するのかを理解することを目的としている。昨年度までにRNA複製反応を約600世代にわたり継代し、その間に複製能力が100倍以上に向上したことを示した。さらにその間に38種類の変異が集団内に固定されたことを示した。すなわちダーウィン型の進化が起きたことを示している。 今年度はさらにその進化プロセスを生化学的に詳細に解析した。本研究で用いたRNAにはRNA複製酵素のアミノ酸配列をコードするという機能と、その複製酵素によって複製される鋳型としての機能という2つの機能を持っている。本年度は進化によってこの2つ能力がどう変わっていったかを解析した。その結果、進化によりRNAにコードされた複製酵素の能力はほとんど変わっていないことがわかった。これに対し鋳型としてのRNAの能力は著しく向上していた。鋳型としての能力のなかでも、RNAが1本鎖のまま複製される能力が大きく上昇していた。この1本鎖として複製されることは、RNAが再帰的な複製をするために重要な能力である。さらにRNAの構造を構造予測ソフトにより解析すると、変異によりRNAの2次構造が強くなっていることも明らかになった。 本研究により、人工的に作った自己複製反応でもダーウィン型の進化が起こることを明らかにした。そして生命のひとつの特徴である高効率性を自発的に獲得することも示すことができた。この結果は初期生命が進化能を持つための十分条件を提示する。さらにその進化プロセスの解析から、RNAの構造が進化により変化しやすいことを見出した。この結果は、RNAをゲノムとして用いた初期生命の進化が現在のDNAゲノムを持つ生命の進化とは異なっていた可能性を示す知見である。
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