研究課題
平成23年度に同定した東アジア人における中心性肥満感受性遺伝子であるTRIB2について、内臓脂肪面積を測定した2つの日本人コホートを用いた関連解析を行い、TRIB2の3'非翻訳領域に位置する一塩基多型(SNP)であるrs1057001が、ボディマス指標や腹囲径よりも内臓脂肪面積とより強力に関連することを見出し、同遺伝子が内臓脂肪蓄積に特異的に影響をおよぼす遺伝子であることを明らかにした。また、1000人ゲノム計画で公表されている全ゲノムSNPデータを集団遺伝学的に解析することにより、同SNPの低内臓脂肪アレルが、最終氷期最大期のあたりにおきた正の自然選択によって東アジア人の祖先集団中で急速に広まったことを支持する結果を得た。この成果はHuman Genetics誌にて公表した。モンゴル人・日本人の代謝特性の民族差に寄与している遺伝的多型を同定する目的で、互いに血縁関係のないモンゴル人32人について約240万のSNPマーカーを収載した全ゲノムSNPマイクロアレイを用いて遺伝子型判定した。国際HapMap計画および1000人ゲノム計画で利用されている日本人の全ゲノムSNP情報と照会することにより、インスリン抵抗性や体脂肪の分布、炎症・免疫反応に関与するいくつかの遺伝子付近のSNPが、両集団で非常に大きな頻度差を示すことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
全ゲノムSNP解析に用いたアレイが仕様変更のために入手するのが遅れ、モンゴル人全ゲノムSNP解析の進捗が当初の計画より若干遅れたが、平成25年度以降に集中的に解析を行うので、研究期間全体としての目標を達成するのには支障はない。
平成24年度で得られた32人分のモンゴル人全ゲノムSNP情報をさらに精細に解析する。集団間で大きな遺伝的分化度を示すSNP群についてgene ontology解析を行うことにより、これらのSNP群が特定の生物学的パスウェイに関与する遺伝子群に偏って存在しているか、そしてそれが両集団の代謝特性の差異に符合し得るかなどについて検討を加える。24年度内に行った試験的な解析で、すでにいくつかの医学的重用な遺伝子の近傍に存在するSNPが、モンゴル人と日本人との間で非常に高い遺伝的分化度を示すことが明らかにしたので、周辺領域の遺伝的多様性の調査を、さらに大きなサイズのサンプル(100~1000人程度)で行う。同領域内に存在するSNPが各種代謝パラメーターへ及ぼし得るかどうか、日本人3013名のゲノムコホートを中心とした大規模な関連解析で検証する。大きな遺伝的分化度を示すも、周囲に代謝特性への影響が報告されている既知の遺伝子が存在しない場合には、新規の代謝関連遺伝子が近傍に存在することを見越して、バイオインフォマティック解析と実験的機能解析を駆使、表現形への関与を追求する。また、これら大きな遺伝的分化度を示したSNPとその周辺領域のゲノム多様性情報を、モンゴル人・日本人を対象に進化遺伝学的に解析することにより、局所的に正の自然選択が作用した証拠の探索を行う。局所的な正の自然選択の証拠が得られた場合、その自然選択の年代推定を通して、自然選択が遊牧や農耕の成立に伴う環境変化に関連したものであるかを明らかにする。
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